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事件の背後に流れる闇の深さ~映画「夜の外側 イタリアを震撼させた55日間」 [映画時評]

事件の背後に流れる闇の深さ~
映画「夜の外側 イタリアを震撼させた55日間」


 1960年代、学生が主導する革命運動が燎原の火のごとく広がった。やがて終焉を迎えたが、運動末期の常として一部が過激化、先鋭化した。日本でいえば70年以降、パレスチナとの連帯を掲げた日本赤軍、大量リンチ殺人で世間を震撼させた連合赤軍である。ヨーロッパではドイツ赤軍、イタリアの赤い旅団がそれにあたる。

 赤い旅団は69年に結成。78年にアルド・モーロ元首相(キリスト教民主党党首)を誘拐、身代金200億リラを要求した。モーロ氏と距離を置くアンドレオッティ政権は支払いを拒否、モーロ氏は遺体で発見された。赤い旅団はその後、壊滅したとされたが99年以降、同名テロ組織が暗躍した時期がある。
 「夜の外側」はアルド・モーロ氏(ファブリツィオ・ジフーニ)の誘拐から殺害・遺体発見までの55日間を追ったドキュメンタリ風の作品である。全編で5時間余、見るのをためらうボリュームだが、見終わってみると、長さを感じさせない緊張感と中身の濃さであった。

 2部に分かれ、前編はモーロ氏と救出の指揮を執ったフランチェスコ・コッシーガ内相(ファウスト・ルッソ・アレシ)、モーロ氏と親交があったパウロ6世(トニ・セルビッロ)を中心に、後編はモーロ氏の妻エレオノーラ(マルゲリータ・ブイ)、赤い旅団のメンバー、アドリアーナ・ファランダ(ダニエーラ・マッラ)らを中心に展開する。前編が当事者間の交渉、後編が事件周辺の人間模様、と言えるかもしれない。同心円の中心部と周辺部、あるいは表と裏といった位置関係である。
 ヨーロッパは中世期に苛烈な宗教闘争の歴史を持つ。特にイタリアは結果としてローマカソリックを基層とする強固な共同体意識が形成された。このことが、身代金支払いに苦悩するパウロ6世、夫の身を案じるエレオノーラらの宗教=共同体意識の深さを感じさせて興味深い。事件を手掛かりに、そうした背景の闇を感じさせる分、中身が濃い。タイトル「夜の外側」(原題も同意の「ESTERNO NOTTE」)も、そのことを示唆している。

 全体にドキュメンタリ風だが、エンドロールにある通り事実の再編、再解釈が行われていることは疑いない。赤い旅団メンバーの動きなど、客観的な証明は今となっては不可能だろう。そんな中で映画の冒頭と後半部分、二度にわたってモーロ氏の生還を暗示するシーンが挟まれたが、何を意図したものか理解が難しかった。
 ともあれ、こうした映画がつくられたのは、事件から40年以上たち傷も多少は癒えたということだろうか。
 2022年製作、イタリア。監督マルコ・ベロッキオ。


夜の外側.jpg


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