台湾の暗部を描く~映画「流麻溝十五号」 [映画時評]
台湾の暗部を描く~映画「流麻溝十五号」
冒頭「事実に基づく創作」とある。台湾にこんな歴史があるとは知らなかった。しかし、あって不思議はないことだった。
台湾の南東に15平方㌔の小さな島、緑島がある。火山島で、日本の植民地時代は火焼島と呼ばれた。台湾警備総司令部は1951年、この島に新生訓導処を建設。政治犯を収容し、思想改造を行った。なぜこんな施設が造られたか。当時の東アジア情勢をみると、そのわけが分かる。
1949年、大陸に毛沢東の中国が成立、蒋介石の国民党は台湾に押し込められた。50年には朝鮮戦争が起き、金日成の北朝鮮軍と中国軍が半島を南下、米軍を主力とする国連軍と対峙した。53年に休戦協定が結ばれたが、米ソ冷戦は一気に緊迫化した。「ザ・コールデスト・ウォー」と呼ばれたこの戦争で死者は計400万人とされる。こうした情勢に、蒋介石が慄然としないはずがない。戒厳令下、白色テロ施設の生まれた背景である。
タイトル「流麻溝十五号」は女性政治犯の収容場所に由来する。したがって、映画の登場人物の多くは女性収容者である。1953年、施設内で反乱を企てたと冤罪を着せられ、14人が処刑された事件を核に展開する。
純粋な心を持つ、絵を描くことが好きな高校生・余杏惠(ユー・シンホェイ)。学生組合に参加したことでスパイ容疑をかけられる。なぜか、杏子という日本語名でも呼ばれる=余佩真(ユー・ペイチェン)▽ひとりの子どもが生まれて間もなく投獄された正義感の強い看護師・嚴水霞(イェン・シュェイシア)。女性寮の寮長のような存在。禁止図書の閲覧で拘束された=徐麗〓(シュー・リーウェン)▽妹を拷問から守るため自首して囚人となった陳萍(チェン・ピン)。舞踊団に入団し、華麗な踊りを見せる=連〓涵(リェン・ユーハン)。
① 〓 雲の上半分に下は文
② 〓 輸のつくりの部分
こうした登場人物が、絶望と希望のないまぜになった日々を送る。日本の植民地支配の名残か、台湾語、北京語のほかに日本語も飛び交う。
この施設がいつごろまで機能したか、国防部などに移管されたため、実はよくわからない。現在は白色恐怖緑島紀念園区(白色テロ施設の人権博物館)として残されている。台湾の歴史の暗部を、台湾自身が描いたことに拍手を送りたい。
2022年、台湾。監督周美玲。
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