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民主化の流れに抗した軍部~映画「ソウルの春」 [映画時評]

民主化の流れに抗した軍部~映画「ソウルの春」


 197910月、朴正熙大統領暗殺で18年に及んだ独裁政権が幕を閉じた。金大中、金永三らによる民主化時代へー「ソウルの春」の期待は膨らんだ。しかし、時代はそうはならなかった。朴政権下、引き立てられた軍人らがクーデターを起こしたのだ。映画「ソウルの春」は、混沌としたその時代を描いた。

 首都の治安維持を巡って二人の人物が対立する。一方は保安司令官チャン・ドゥガン少将(ファン・ジョンミン)。権力の階段を上り詰めようとする野心的な男。もう一方に首都警備司令官イ・テシン少将(チョン・ウソン)。こちらは清廉潔白。二人の上には大統領や国防長官がいるが、いずれも逃げ腰。唯一、参謀総長(イ・ソンミン)はイ・テシンの側につくが無力だった。
 チャン・ドゥガンは左遷と思われる人事を前に反乱を企てる。彼の背後には軍部の非公式組織ハナ会がいる。日ごろから徒党を組み陸軍本部をのし歩くドゥガン。イ・テシンは参謀総長に現ポストを言い渡され忠誠を誓う。チャン・ドゥガンと右腕ノ・テゴン少将らは数で圧倒、国防長官にイ・テシン解任を命じさせ、万事休す。部下に「ついてくるな」と命じ、イ・テシンは一人反乱軍の戦車に立ち向かう…。
 分かりやすい構図に、韓国映画お得意の緊迫感あふれる映像のラッシュがかぶさる。

 実際の歴史を振り返ってみる。中央情報部長官・金載圭による朴大統領暗殺後、全斗煥は事件の合同捜査本部長に任命された。ここから1212クーデターを経て翌年には金大中ら26人を逮捕、金永三を自宅軟禁にした。517クーデターである。こうした強権政治復活に危機感を持つ市民、学生が立ち上がったのが光州事件だった。反乱を力ずくで抑え込んだ全斗煥は大統領を二期、右腕だった盧泰愚も大統領を一期務めた。民主化の進行とともに光州事件の政治責任を問う声が強まり、特別法の成立によって全斗煥に無期懲役、盧泰愚に懲役17年の判決が下った(金大中政権によっていずれも特赦。全斗煥は90歳、盧泰愚は88歳で没)。


(この項「韓国現代史」文京沫著を参照)
 


 全斗煥らは、朴政権の軍部による権力掌握を継続しようとした。民主化の大きな流れに抗した反動的な一コマだったといえる。しかし、映画はこうした歴史的位置づけより、全斗煥を狡猾で野心的な悪役として描き、一方に正義漢イ・テシンを悲劇のヒーローとして対置することで共感を得ようとした(つまりエンタメ志向)。この点、前後の動きを入れることで歴史的な位置づけを明確化したほうが興味深かったように思うが…。
 なお、登場人物はいずれも実在者をモデルにしていると思われ(イ・テシンは不明)、脚色も入っていそうなので、映画上の役名をそのまま使用した。
 2023年、韓国。監督キム・ソンス。


ソウルの春.jpg


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