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歴史的なわだかまりが背景に~映画「人間の境界」 [映画時評]

歴史的なわだかまりが背景に~映画「人間の境界」


 ポーランドとベラルーシの国境地帯。ヨーロッパ圏とロシア圏の境界でもある。ここで何が起きているか。映画は、その一端を教えてくれる。これは真実か、それともフェイクか。

 「人間の境界」公式HPによると、公開と同時にポーランド政府は「事実と異なる」とする動画を併せて流すよう命じた。独立系映画館は無視。ヨーロッパ映画監督連盟(FERA)などの支持表明で、政府対映画という構図が生じた。

 

 202110月。ミンスク空港にシリア難民の家族が降り立つ。ベラルーシ経由でポーランドに入れば船より安全で早いとの情報を得ていた。国境警備隊の助けでポーランドに入ったが、森林地帯で追い返された。

 ベラルーシはシリア人やクルド人難民を集め、ポーランドに送り込む戦略を立てた。ルカシェンコ強権体制に反発する人々も、ヨーロッパへ脱出を目指した。シェンゲン協定(ポーランドは2003年、2023年現在27か国加盟)により、ヨーロッパほぼ全域がパスポートなしで通行可能になった。

 目算は外れる。ポーランドの国境警備隊が、一家をベラルーシに送り返した。「サッカーボールのように5回も6回も投げ返された」と嘆く。

 

 公式HPによると、国境地帯は人為的に引かれた国境線(直線)と、地形に沿いあいまいな部分(緑の国境線)とがあるという。ポーランド政府はこの森林地帯を立ち入り禁止区域にした。難民がいることが分かっても、救助はできなくなった。

 人道支援組織が、負傷し動けない越境者に語り掛けた。「難民申請をするか、それともこの森で生きるか」。難民申請は、ほとんど通らない。最悪、強制送還となる。母国ではどうなるか分からない。一方、この森で生きることは不可能である。そんな絶望的な選択を迫られる。

 一見、ポーランドの非情な対応が目につくが、こうした状況を生み出したのは難民を戦略的に「兵器」として使うベラルーシである、ともいえる。

 視点を変えてみよう。第二次大戦時、ポーランドはスターリン率いる旧ソ連によって独ソ分割、カチンの森虐殺、ワルシャワ蜂起の見殺し―と、悲惨な目にあわされた。今のロシア=ベラルーシに対して、こうしたわだかまりが影響していないとは思えない。

 

 エンドロールのテロップによると、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まり、2週間で200万人をポーランドは受け入れた。一方で難民問題が深刻化した2014年以降、ヨーロッパ全体で3万人が亡くなった。果たしてここにあるのはヨーロッパ社会の二枚舌なのか、ベラルーシの非情な難民戦略なのか。

 原題「Zielona Granica(Green Border)。今回は珍しく邦題が優れていた。人間の都合で引かれた国境線を越えるため命を落とす不合理とともに、人間と非人間の境界をも暗示しているととれるからだ。

 2023年、ポーランド、フランス、チェコ、ベルギー合作。監督は「ソハの地下水道」のアグニエシュカ・ホランド。人間の尊厳を問う問題作。観るべき映画。

人間の境界.jpg


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