見えてくる「傲慢なデンマーク」~映画「GOD LAND」 [映画時評]
見えてくる「傲慢なデンマーク」~映画「GOD LAND」
不思議な映画である。
遠藤周作の原作をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 Silence」は17世紀、キリスト教弾圧が激しかった日本に潜入したイエズス会(カソリック)宣教師の苦悩を描いた。この「GOD LAND」も一見似た設定だが、展開されたドラマはまったく別物であった。
まず時代設定。19世紀後半、デンマークから独立する前のアイスランドが舞台。スカンジナビア半島の西、白夜と火山の島。日本とは自然条件がかなり違う。16世紀にデンマークがルター派を強制導入したため、登場する宗教者は「牧師」と呼ばれ、プロテスタントと分かる。「沈黙」のような内省的な描写はほとんど出てこない。
ルーカス(エリオット・クロセット・ホーヴ)は、司教(ワーゲ・サンド)からアイスランドの辺境に教会を建てるよう指示される。「沈黙」のような禁制の地ではないが過酷な地には違いなく、前半は探検ドキュメントのようなシーンが続く。ガイドのラグナル(イングヴァール・E・シーグルズソン)はデンマーク人が嫌いらしく無愛想で言葉も通じず(このことは、デンマーク人が傲慢である証でもある)、ルーカスは、ほうほうの体で目的地にたどり着く。
村人の反応は複雑である。ルーカスの言動を、独善的で傲慢と受け取るカール(ヤコブ・ローマン)ら(彼の敷地内で教会建設が進む)の一方、彼の娘アンナ(ヴィクトリア・カルメン・ゾンネ)やイーダ(イーダ・メッキン・フリンスドッティル)のように、洗練された考え方の持ち主と憧憬を持つものも。ラグナルを含め、反発渦巻く中でルーカスの心は平衡を失っていく…。
映画は、こうしたルーカスの心に寄り添うわけではなく、高みから見下ろしている。
冒頭、興味深いスーパー。「デンマーク人牧師による写真が見つかった。アイスランド南東部を写した初めての写真である。これらの写真にインスパイアされてできた映画である」-。
荒涼とした風景とは場違いに大きなカメラを担いで旅をする(時代からすると、幕末期に坂本龍馬らが収まったカメラとほぼ同型)。布教活動というより撮影旅行のようだ。このことも、ルーカスと村人の埋めがたい溝を表している。写真を撮ってほしいとガイドに懇願されたルーカスがにべもなく断るシーンがあるが、彼を巡る人間関係を象徴するエピソードだ。
原野に放置されたルーカスの遺体は、やがて土に帰っていく。周りの自然はあくまでも美しい。人間のいさかいなど小さなものといわんばかりに悠久である。
原題「Vanskabte Land」(デンマーク語?)はgoogleで「変形した土地」。邦題とはかけ離れている。エンドマークあたりで流れるデンマーク賛歌(強烈な違和感)を重ねると、アイスランドに対する当時のデンマークの傲慢、偏見、差別意識が見えてくる。これが、自己批判的に描きたかったことだろう。
監督フリーヌル・パルマソン。2022年、デンマーク・アイスランド・フランス・スウェーデン合作。
遠藤周作の原作をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 Silence」は17世紀、キリスト教弾圧が激しかった日本に潜入したイエズス会(カソリック)宣教師の苦悩を描いた。この「GOD LAND」も一見似た設定だが、展開されたドラマはまったく別物であった。
まず時代設定。19世紀後半、デンマークから独立する前のアイスランドが舞台。スカンジナビア半島の西、白夜と火山の島。日本とは自然条件がかなり違う。16世紀にデンマークがルター派を強制導入したため、登場する宗教者は「牧師」と呼ばれ、プロテスタントと分かる。「沈黙」のような内省的な描写はほとんど出てこない。
ルーカス(エリオット・クロセット・ホーヴ)は、司教(ワーゲ・サンド)からアイスランドの辺境に教会を建てるよう指示される。「沈黙」のような禁制の地ではないが過酷な地には違いなく、前半は探検ドキュメントのようなシーンが続く。ガイドのラグナル(イングヴァール・E・シーグルズソン)はデンマーク人が嫌いらしく無愛想で言葉も通じず(このことは、デンマーク人が傲慢である証でもある)、ルーカスは、ほうほうの体で目的地にたどり着く。
村人の反応は複雑である。ルーカスの言動を、独善的で傲慢と受け取るカール(ヤコブ・ローマン)ら(彼の敷地内で教会建設が進む)の一方、彼の娘アンナ(ヴィクトリア・カルメン・ゾンネ)やイーダ(イーダ・メッキン・フリンスドッティル)のように、洗練された考え方の持ち主と憧憬を持つものも。ラグナルを含め、反発渦巻く中でルーカスの心は平衡を失っていく…。
映画は、こうしたルーカスの心に寄り添うわけではなく、高みから見下ろしている。
冒頭、興味深いスーパー。「デンマーク人牧師による写真が見つかった。アイスランド南東部を写した初めての写真である。これらの写真にインスパイアされてできた映画である」-。
荒涼とした風景とは場違いに大きなカメラを担いで旅をする(時代からすると、幕末期に坂本龍馬らが収まったカメラとほぼ同型)。布教活動というより撮影旅行のようだ。このことも、ルーカスと村人の埋めがたい溝を表している。写真を撮ってほしいとガイドに懇願されたルーカスがにべもなく断るシーンがあるが、彼を巡る人間関係を象徴するエピソードだ。
原野に放置されたルーカスの遺体は、やがて土に帰っていく。周りの自然はあくまでも美しい。人間のいさかいなど小さなものといわんばかりに悠久である。
原題「Vanskabte Land」(デンマーク語?)はgoogleで「変形した土地」。邦題とはかけ離れている。エンドマークあたりで流れるデンマーク賛歌(強烈な違和感)を重ねると、アイスランドに対する当時のデンマークの傲慢、偏見、差別意識が見えてくる。これが、自己批判的に描きたかったことだろう。
監督フリーヌル・パルマソン。2022年、デンマーク・アイスランド・フランス・スウェーデン合作。
2024-05-23 14:28
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