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映画好きたちの再起の物語~映画「銀平町シネマブルース」 [映画時評]

映画好きたちの再起の物語~
映画「銀平町シネマブルース」


 みんなどこかで挫折し、心に傷を負い、それでも生きていかなければ、と思い、再起を目指す。そんな人間たちが不可思議な引力によって集う。そんな空間だから、どこか優しい空気が漂う。派手でもなく、力強くもないが、見終わって「よし。生きていくぞ」と思わせる映画である。

 架空の街でかつかつ営業を続ける「スカラ座」(わが町にも同名の映画館があったが、とうにつぶれた)。そこへ、わけあって男が転がり込む。アルバイトとして働きはじめた近藤猛(小出恵介)に、館長の梶原啓司(吹越満)はどこか見覚えがあった…。
 近藤は、ここに来る前に映画好きのホームレス佐藤(宇野祥平)と公園で出会っていた。毎日のように映画館通いの佐藤は、得体のしれないNPO法人の口車に乗って生活保護を受け、上前をはねられていた。疑惑の目で見ていた梶原と近藤は、転売目的の携帯を何台も買わされたことを知って「生保助成」法人に乗り込み、代表の黒田(浅田美代子)と談判する。席上、刑法の条文を持ち出して「詐欺罪に当たる」と啖呵を切る梶原は、実は弁護士だった。
 梶原も、何かわけがあって弁護士をやめ、親譲りの映画館をやっているのだろう。そして、最大の「わけあり人間」は近藤である。これまでどんな人生を送ってきたのか。

 梶原の元へ、映画監督を目指す若い女性の映画が送られてきた。落ちぶれた監督と助監督のストーリー。館で試写会を開いたが評価はいまひとつだった。そんな中、涙を流すほど感動したのが近藤だった。
 近藤は、ホラー映画界では知る人ぞ知る監督だった。ある作品を撮っている途中で信頼していた助監督が自殺。理由が分からず、映画作りを断念したのだった。借金を抱え妻と離婚、失踪した。そして3年ぶり、かつて通った映画館のあるこの街に現れたのだった。梶原が、見覚えがあると思ったのは、常連客だったからだった。

 かつての近藤の名声を知った梶原は、映画館再生イベントを計画する。目玉は、近藤が途中で断念した作品を仕上げ、持ち込まれた若い女性の映画とともに上映すること。再び目標が持てた近藤は映画の編集に没頭した。助監督の実家も訪れ墓参も済ませた。
 イベントは大成功。別れた妻も見に来てくれた。館はかつての賑わいを取り戻した。それを見た近藤がとった次の行動は…。

 映画好きが集まって再起の手がかりを探す。こんな映画を、単なる「メルヘン」とみるかどうかはあなたの自由である。
 2023年、城定秀夫監督。

銀平町.jpg


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