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二つの魂の再生の物語~映画「とべない風船」 [映画時評]

二つの魂の再生の物語~映画「とべない風船」


 挫折感とトラウマを抱えた二人が瀬戸内の小さな島で出会う。不器用でぎこちない会話の中、何かしら通じ合うものを感じる。果たして二人は、魂の再生を果たすことができるのか。

 凛子(三浦透子)は教師としての行き詰まりを感じ退職。派遣の仕事をしていたが契約切れを機に故郷の島に帰ってきた。妻さわ(原日出子)を病で亡くした父・繁三(小林薫)が一人暮らしていた。寡黙な漁師・憲二(東出昌大)が近くの海でとれた魚を時折、届けに来ていた。
 憲二は数年前の集中豪雨で妻の幸(なかむらさち)と息子のコウタを亡くした。急用のため車で外出したところ、土砂崩れが襲ったのだ。豪雨の中、なぜ止めなかったのかと、憲二は自責の念にかられた。幸の父(堀部圭亮)も「お前が殺した。島を出ていけ」と責めた。
 無口な憲二を疎ましく思っていた凛子も、会話を重ねるうち、次第に心根の優しさを知る。そんな折り、小学生・咲(有香)が行方不明になった。島総出で捜索態勢をとった矢先、見つけたのは憲二だった。以来、咲と憲二は心を通じ合うようになる。居酒屋の女将マキ(浅田美代子)から母の晩年の様子を聞かされ、凛子は知らなかった父の一面を知る。

 心に傷を負った二人が、島の明媚な自然と誠実な人間関係に癒され、再起していく。その過程で、憲二の自宅の庭に結びつけられた黄色い風船が、一つの役割を担う。コウタが結んだものだった。あの夜への自責の念を断てない憲二は、風船を解き放つことができないでいた。
 黄色い風船は「黄色いハンカチ」の逆回転の物語だと分かる。作中にもそれをにおわすセリフがある。

 ここまでは、よくできた作品だと思う。心の傷を、対照的に明るい瀬戸内の風景の中で描くという手法も悪くない。東出、三浦の演技も評価していい。ただ、二人の思いを黄色い風船に託すというラストへの流れが、もう一つ周到であればと思う(「幸福の黄色いハンカチ」のラストへのなだれ込みのなんと見事なこと)。言い換えれば、二人が島で出会うことの意味がラストでうまく回収されていないことと、無関係ではないように思える。
 監督・宮川博至。2022年製作。

とべない風船.jpg


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