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日常の危うさを繊細に描く~映画「LOVE LIFE」 [映画時評]

日常の危うさを繊細に描く~映画「LOVE LIFE


 かけがえのない日常が、ある日突然崩れていく。目の前に現れた亀裂には、悪意に満ちた過去が渦巻いている。そんな物語を、深田晃司監督は「よこがお」や「淵に立つ」で描いた。「LOVE LIFE」もまた家族の物語であるが、前二作とは明らかに何かが違っている。
 「さよならだけが人生だ」といったのは井伏鱒二だが、この作品は「すれ違いだけが人生だ」と言っているようだ。登場人物はそれぞれの思いを抱き、生きようともがいている。しかし、周囲はその思いを受け止めきれないでいる。すれ違いの中で、転がる石のように物語が展開する。

 妙子(木村文乃)は夫の二郎(永山絢斗)、息子の敬太(嶋田鉄太)とともにある団地で暮らしていた。二郎の両親も、同じ団地にいた。絵に描いたような、平穏な中流の暮らし。しかし、ある出来事を契機に妙子の過去がのぞく。
 二郎の父、つまり妙子の義父の誕生日を祝っていた。子連れ再婚の妙子に義父は引っ掛かりを持ちながらも、パーティーは盛り上がった。そのさなか、敬太が風呂場で水死した。「水を抜いておけばよかった」と悔やむ妙子。しかし、だれが責めるわけでもなかった。
 葬儀場に現れたのは、韓国人でろうあ者の前夫パク(砂田アトム)だった。妙子を殴りつけ、二人は号泣。誰がみても夫婦の所作で、二郎の胸中は複雑だった。
 一度は家を捨て、舞い戻ったパクは近くの公園でホームレスをしていた。国籍も違いろうあであることで不自由な生活を強いられていた。妙子は「放ってはおけない」と手を差し伸べた。博愛精神だったが、周囲はそうは取らなかった。感情のすれ違いが生じた。
 パクの元へ郵便物が届いた。韓国の父が危篤状態だという。帰国の旅費を妙子は出しただけでなく、韓国まで同行した。しかし、危篤は嘘で、パクの前妻の息子の結婚式という。どんちゃん騒ぎの中ひとり取り残され、呆然とする妙子。ここでも、思いはすれ違った。
 帰国した妙子を待っていたのは二郎だった。「散歩でもしようか」という二郎にうなずく妙子。すれ違いのない「日常」が得られた瞬間だった…。

 ホームレスをしていたパクになぜ郵便物が届くのか、とか小さな疑問はあるが、ごく普通の家庭の人間模様や心理は繊細に描かれている。イランのアスガー・ファルハディ監督作品を見るようだ。
 2022年、脚本も深田晃司。

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