SSブログ

極私体験と歴史記憶を結ぶ細い糸~映画「パラレル・マザーズ」 [映画時評]

極私体験と歴史記憶を結ぶ細い糸
~映画「パラレル・マザーズ」


 同じ日、同じ病院で出産した二人が取り違え事件に遭遇、苦悩する姿を描く。一方でうち一人はスペイン内戦で不明となった曾祖父の行方を追い、ファランヘ党(スペインのファシスト党)による村人虐殺の真相を突き止めようとする。二つのエピソードをつなぐ糸は―。

 マドリードの写真家ジャニス(ペネロペ・クルス)は法人類学者アルトゥーロ(イスラエル・エルハルデ)の撮影を引き受けた縁で、内戦下の村で起きた虐殺事件の真相解明へ協力を頼んだ。アルトゥーロは快諾、男女の関係になったジャニスは妊娠。アルトゥーロには妻がいたため、シングルマザーになることを決意する。病院には10代のアナ(ミレナ・スミット)もいた。二人はほぼ同時に出産した。
 ある日訪れたアルトゥーロが、浅黒い肌を見て「自分の子じゃない」と言い切った。悩むジャニスはDNA鑑定をする。結果は「生物学上、親子関係は認められない」。考えられるのはアナの子との取り違えだった。たまたま訪れたアナから検体を入手、鑑定で「99.9999%の確率で親子」とされた。アナが引き取っていた子の現在を聞くと、突然死したという…。

 虐殺事件の真相追求のため、アルトゥーロを中心に発掘調査が本格化した。村人の証言通り多数の白骨が発見され、歴史的な記憶に新たな1㌻が加えられた。「声なき歴史などない」とのガレアーノ(ウルグアイ出身のジャーナリストのことだと思う)の言葉が画面に流れる。

 実を言えば、乳児取り違えという極私的体験とスペイン内戦の過酷な体験がどう結びつくのか興味深かったが、そのあたりはあいまいに終わった。「家族のかたち」がキーワードかもしれないが、結ぶ糸を読み解くには至らなかった。残念。わが子の取り違え事件では「そして父になる」(是枝裕和監督)が記憶に残るが、育ての親か血縁上の親かをめぐって葛藤する男の内面を丹念に描いたこの作品には及ぶべくもないようだ。
 2021年、スペイン・フランス合作。監督は女性を描くことで定評のあるペドロ・アルモドバル。


パラレル・マザーズ.jpg


nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。