SSブログ

ある種の哀切がないのが残念~映画「冬薔薇」 [映画時評]

ある種の哀切がないのが残念~映画「冬薔薇」


 夏の終りかけた横須賀。ガット船による砂利運搬を家業とする老いた夫婦とその息子の、不器用で孤独な生き様を描く。この手触り、どこかで触れたような。佐藤泰志の、函館を舞台にした「海炭市叙景」に似ている。
 渡口義一(小林薫)と妻道子(余貴美子)は、家業をたたむ時期が近いと感じている。沖島達雄(石橋蓮司)ら3人の船員の合計年齢は200歳を超した。彼らも義一の胸の内は分かっている。
 義一には息子・淳(伊藤健太郎)がいた。服飾デザイナーを目指して専門学校に在籍するがほとんど通っていない。「半グレ」仲間と倉庫街でつるむ毎日。しかし、先頭に立つタイプではない。ある日、潤は小さな抗争に巻き込まれ大けがを負った。
 2カ月たって病院を出ると、不況で失職した道子の弟・中本治(眞木蔵人)が義一の船に乗っていた。息子の貴史(坂東龍汰)も一緒で、彼はある事情で教員をやめ、塾の講師をしていた。
 淳には、実は兄がいた。小さいころガット船の船底に転落、命を落とした。そのことも、親子にわだかまりを残していた。
 そんな日常の中で事件が起きた。半グレ仲間のリーダー格である美崎輝(永山絢斗)の妹・美崎智花(河合優実)が何者かに襲われたのだ。監視カメラやドラレコの映像から、犯人は貴史と判明。美崎は手下の男に「刺せ」と命じた…。
 事件を契機に、美崎の仲間は離れていった。淳は、専門学校で友人と思っていた友利洋之(佐久本宝)が故郷で家業を継ぐことを思い出し、雇ってもらうことに。家を出てバスに乗り込む直前、電話すると「友達でもないのに。来ないでくれ」という。怒りと落胆の淳に小雪が降りかかった。そこへ手を差し伸べたのは、仲間を失った美崎だった。
    ◇
 古くて恐縮だが、孤独でよどんだ世界から脱出を試みながら果たせない物語は「竜二」(川島透監督、1983年)を思わせる。「竜二」にはある種の哀切が漂っていた(主演・脚本の金子正次が公開直後に病死したという事情だけではないだろう)。「冬薔薇(ふゆそうび)」にはしかし、それはない。「冬薔薇」は文字通り冬に咲く花だが、その動詞に前置する言葉は、「所詮は」だろうか「それでも」だろうか。判断は難しいが、そこが評価の分かれ目に思える。
 2022年、阪本順治監督・脚本。

冬薔薇.jpg



nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。