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反ユダヤ社会を「弾劾」~映画「オフィサー・アンド・スパイ」 [映画時評]

反ユダヤ社会を「弾劾」~
映画「オフィサー・アンド・スパイ」


 「戦場のピアニスト」で戦争の愚かさと恐怖を描いたロマン・ポランスキー監督が、19世紀末にフランスで起きた「ドレフュス事件」を映像化した。ポーランド人の両親を持つポランスキーは、父はユダヤ教徒だった(母はカソリック教徒)。母はアウシュビッツで殺され、1933年生まれの自身もフランス・ヴィシー政権下でユダヤ人狩りを経験した(父は戦後まで生きのびた)。「戦場のピアニスト」には、こうした体験が色濃くにじむ。
 ドイツへの機密情報漏えいの容疑で逮捕されたドレフュス大尉は、ユダヤ人だった。決定的な証拠もなく、終身刑を言い渡され孤島につながれるが、その後、真犯人が浮上。冤罪の疑いが強まる。しかし、ドレフュスを青天白日の身にするにはあまりに壁が厚かった。国内に反ユダヤ感情が渦巻いていたからだ…。
 「オフィサー・アンド・スパイ」も、製作のモチベーションとして「ユダヤ人差別」への批判があることが分かる。

 普仏戦争(1870-71年)の敗戦の傷も癒え始めた1894年、ドレフュス(ルイ・ガレル)は逮捕された。有罪判決を受け、仏領ギアナ沖の悪魔島(ディアブル島、映画「パピヨン」を思い出す)に送られた。直後に防諜局長に任命されたピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)は、ドイツ人将校にあてた手紙を発見する。筆跡鑑定でドレフュスではなく、エステルアジが書いたと判明した。ピカールはドレフュス無罪を訴えたが軍上層部は反対し、もみ消しを図った。ピカールはアフリカなどの任地を転々とした。
 当時の大作家エミール・ゾラや新聞を巻き込み、ドレフュス事件は国論を二分する事態に発展した。証拠のみに依拠して合理的判断をすればドレフュス無罪は当然と思われたが、熱狂的な反ユダヤ感情がそれを阻んでいた。

 「戦場のピアニスト」と同じく、ポランスキーは事件を史実に沿って比較的淡々と描く。観るものに届くものが多いことを、当然ながら心得ているからだろう。ピカールを情熱溢れる正義漢ではなく、上司の妻と不倫する脇の甘い人間として描いたり、ドレフュス無罪にいたる経緯も、スッキリとはしないかたちで描いたり(結局、抑留は14年に及んだ)、手が込んでいる。その分、反ユダヤの社会的背景が説得力を持ってせりあがってくる。アルザスの料理だったかスイーツだったかを懐かしがるシーンがあるが、普仏戦争がアルザス・ロレーヌをめぐる争いであったことに鑑みると、にやりとさせられる。
 2019年、イタリア・フランス製作。原題「J'accuse..!(私は弾劾する!)」はゾラが新聞に寄稿した告発文のタイトル。


オフィサーのコピー.jpg


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