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心理サスペンスに軸足~映画「マヤの秘密」 [映画時評]

心理サスペンスに軸足~映画「マヤの秘密」


 第二次大戦中、ナチスの兵士に強姦された女性が15年後に復讐を果たす。一言でいえばそんな物語だが、観おわって心にしこりが残る。これは何だろう。
 最終的に元兵士は命を奪われる。かつての戦争犯罪がそうさせた、と単純に読み切れないものがある。「ナチ」とレッテルを張れば私刑も可能なのか。いま、ネオナチと呼ぶことで他国への侵略を正当化するプーチンのやり口と、それほど違わないことにならないか。収容所への冷酷な運搬人だったアイヒマンでさえ、裁判を経て処刑された。

 米国、おそらく南部と思われる街の郊外。マヤ(ノオミ・ラパス)は医師の夫ルイス(クリス・メッシーナ)と暮らしていた。自宅近くの芝生で息子パトリックと過ごしていて、ある男(ジョエル・キナマン)の犬を呼ぶ指笛に記憶を呼び覚ます。男の顔には見覚えがあった。後を追ったが見失ってしまった。
 男が、ある工場で働いていることを突き止めたマヤは待ち伏せし、すきを見てハンマーで殴りつけトランクに押し込んだ。人目につかない場所で殺害するつもりだったが、命乞いされ決断できなかった。
 男を車に乗せたまま自宅に戻ったマヤは、ルイスに自分の過去を明かした…。
 彼女の一家はロマ民族【注】で、ナチの絶滅収容所に入れられていた。妹と脱走を図ったがナチの兵士に見つかり、強姦の末、妹を含む仲間たちは射殺された。マヤは死体と誤認され、生きのびた。

 自宅地下に監禁した男をめぐり、マヤとルイスの葛藤が始まった。男はスイスで暮らしていたといい、戦争の経験はないという。ルイスは男の言葉を信じるが、マヤは男の顔を忘れるはずはない、という。真実はどこにあるのか。最後に男は本当のことをしゃべるのか。

 こうしてみると、ドラマの軸足は心理サスペンスにあり、ナチの戦争責任の話は舞台装置にすぎない。そうした見方をしないと、出口がなくなりそうだ。
 2020年、アメリカ。監督ユヴァル・アドラー。

【注】アウシュビッツ収容所には一枚のプレートがある。“We Must Free The German Nation of PolesRussiansJews and Gypsiez”。書いたのはナチスドイツで法相を務めたOTTO THIERACKGypsiez(ジプシー)は差別的言語とされ、現在ではロマ民族を使う。この作品でも、監禁された男にマヤが「(あの時のように)ツィゴイネル・フォッツェ(ジプシーの売女)と言ってみろ」というシーンがある。ツィゴイネル(Zigeuner)はジプシーのドイツ語。


マヤの秘密.jpg


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