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連続殺人の男が放つ闇~映画「死刑にいたる病」 [映画時評]

連続殺人の男が放つ闇~映画「死刑にいたる病」


 連続殺人で死刑判決を受けた男が、拘置所から発する不思議なメッセージ。深い沼のような世界が広がる。アンソニー・ホプキンスとジョディ・フォスターの「羊たちの沈黙」を思わせるサイコスリラーだ。

 祖母の葬儀で帰郷した筧井雅也(岡田健史)は三流大の法学部の学生だ。教育熱心な父親を持ち進学校に入ったが、大学受験は失敗した。彼に一通の手紙が届いていた。子供のころ通ったベーカリーの店主・榛村大和(阿部サダヲ)からだった。残忍な手口で24人を殺害したとされ、死刑判決を受けていた。頼みたいことがあるという。
 雅也は拘置所の榛村を訪ねた。「冤罪をはらしてほしい」という。世間で報道された24件のうち、立件されたのは9件。ほかは証拠不十分で不起訴となった。9件のうち1件は自分ではないという。
 雅也は裁判を担当した弁護士事務所を訪れ、公判資料を見た。確かに9件のうち1件は明らかに違っていた。8件は被害者が10代後半で手足の爪がはぎとられるという特異性を持っていたが、この1件は24歳の女性で爪はすべてそろっていた。被害者は根津かおる(佐藤玲)といった。
 有罪の決め手となったのは、金山一輝(岩田剛典)の目撃証言だった。公判記録では、証言は遮蔽措置が取られたうえでなされていた。証人と被告のあいだに心理的なトラブルがあったことを物語っていた。
 祖母の遺品を整理するうち、古い写真が出てきた。母の衿子(中山美穂)が写っていた。ある人権活動家のボランティア集団らしかった。そこには榛村もいた。当時を知る人から、事情が分かってきた。榛村と衿子は両親の虐待にさらされ、引き取られていたのだ。そのころ衿子には妊娠の事実があったことも。父親は? 榛村だとすると、彼は自分の父親ということになる。雅也の心は揺れた。

 心に闇を持つ榛村はこのころ、いじめの対象を子供たちに向けていた。それが金山と彼の弟だった。公園に連れて行き、互いを傷つける「イタイ遊び」を強いていた。それが金山のトラウマとなっていた。榛村はそのことを利用し、偶然を装って金山にイタイ遊びの標的として根津を指名させたのだった。
 雅也は中学時代の同級生・加納灯里(宮崎優)と学内で出会い、深い仲になるが、そのとき灯里は謎めいた言葉を発する。「好きな人の一部を持っていたい気持ち、雅也も分かるよね」と。その直前、雅也は榛村と対話するが、そこで象徴的なシーンがある。面会室に現れた榛村の姿がガラスに映り、雅也の姿とかぶさった。榛村が雅也に憑依したかのように。榛村の発した闇、あるいは「死刑にいたる病」は、雅也と灯里のどちらに(あるいは二人に)乗り移ったのだろうか。

 2022年製作。監督・白石和彌、原作櫛木理宇。阿部サダヲは知能の高い殺人鬼の心理のアヤに踏み込み、いつもながら怪演。


死刑にいたる病.jpg


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