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市井の情を濃やかに~映画「殺すな」 [映画時評]

市井の情を濃やかに~映画「殺すな」


 藤沢周平「橋ものがたり」所収の一編を映像化した。海坂藩を舞台にした作品群とは一味違う「市井もの」である。裏長屋にひっそり暮らす人々の愛憎もようを濃やかに描いた。

 吉蔵(柄本祐)は船宿を営む大店・玉木屋に雇われていたが、若女将のお峯(安藤サクラ)と懇ろになり駆け落ちした。以来、隠れるように暮らしてきた。お峯は退屈な暮らしぶりに虚しさを覚え始め、たまには川向こうに出掛けて買い物でもしたい、と漏らすようになっていた。
 船頭で生計を立てていた吉蔵はこうしたお峯を見て、内職の筆づくりで糊口をしのぐ同じ長屋の浪人、小谷善左エ門(中村梅雀)にお峯が橋を渡らぬよう監視を頼んだ。
 善左エ門には、苦い過去があった。ある日お峯に問われ、妻はいたが私が斬ったのだと答えた。不義密通の噂が立ち、疑念が晴れないままある橋の上で斬ったのだった。
 船頭の仕事にいそしむ吉蔵は、ある日お峯の主人・利兵衛(本田博太郎)と出会った。さんざん責められた吉蔵はそれでも口を割らず、かえってお峯への思いを強くした…。

 一方、お峯はひっそりと、かつての大店に戻ることを決意していた。長屋を出ていったことに気づき後を追う吉蔵と、それを追う善左エ門。善左エ門には、いとしいと思うあまり激高して妻を手にかけた自分の行為を今も悔いていた。そのため、思わず吉蔵の背中に声をかけた。「いとしいと思うなら、殺してはならぬ」
 監督は、この1月に亡くなった井上昭。遺作となった。

殺すな.jpg


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