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グアンタナモという米国の恥部~映画「モーリタニアン 黒塗りの記録」 [映画時評]

グアンタナモという米国の恥部~
映画「モーリタニアン 黒塗りの記録」


 モーリタニアはアフリカ大陸の西海岸にある小国。ここに住む青年モハメドゥ・スラヒ(タハール・ラヒム)が2001年米同時多発テロ(9.11)直後のある日、母親の目前で連行された。彼はこの日から14年間、カリブ海のグアンタナモ収容所で拘禁される。その体験をまとめた彼自身の手記に基づいて作られたのが、この映画である。

 ジョン・ダワーの近著「戦争の文化」は1941-45年の日米戦争と9.11からイラク戦争へと向かう米国の戦争を歴史的な時間軸を飛び越え縦横に論じた力作だが、そこでも米国の汚点としてのグアンタナモ収容所の存在が幾度も言及されている。ダワーによれば、米西戦争後の1901年、米国はカリブ海の島々の統治権とともに、グアンタナモ収容所と行われていた水責めという拷問方法を手に入れた。それが戦争の文化として今日まで続くという。

 映画に戻る。
 裁判も開かれないまま、スラヒは5年間の拘束に耐えていた。このことを知った人権派の弁護士ナンシー・ホランダー(ジュディーフォスター)は事務所の若手弁護士テリー・ダンカン(シェイリーン・ウッドリー)とともに支援に乗り出す。対抗して政府側はスチュアート・カウチ中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)を立ててきた。
 ナンシーはグアンタナモ収容所の取り調べの実態を知るため資料を請求するが、送られてきたのは黒塗りの資料だった。スラヒはナンシーの勧めもあり、手記を書き始めた。つづられたのは「特殊尋問」の戦慄の実態だった。カウチ中佐は軍の厳命でスラヒ死刑を目指すが、疑問を抱き始める…。

 米国はテロとの戦いには敵と同次元の無法・無差別な手法が許されると思いこんでいるフシがあるが、再び「戦争の文化」によれば、グアンタナモの実態を知った同盟国・英国の政府高官は2008年、「率直に」米国を批判。「テロリズムに対しては断固として訴追によって」「公正な法の手続きにのっとって」戦うべきだとしているという。そのうえで9.11への米国の対応は「過剰反応」「大きな誤り」だったとする。

 スラヒは2002年に連行後8年間拘束され、法廷で無罪を獲得した。時期からすると、英国をはじめ国際世論の動向が影響しているのかもしれない。しかし、ブッシュに続くオバマ大統領も7年間、彼を解放しなかった。そしてオバマ大統領はグアンタナモ閉鎖を公約したが実現しなかった。今日まで約780人が収監され、有罪判決を受けたのは8人でうち3人は無罪へと覆ったといわれる。ただ、映画はスラヒ自身の手記によっており、最終的に無罪かは分からない。
 2021年、英米合作。監督ケビン・マクドナルド。


モーリタニアン.jpg


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