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米国版水俣の闘い~映画「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」 [映画時評]

米国版水俣の闘い~映画「ダーク・ウォーターズ
 巨大企業が恐れた男」


 米国の巨大化学企業「デュポン」が起こした環境汚染にひとり立ち向かう弁護士を描いた。ポリティカルスリラーだが、この手のものになると米国の映画業界はとたんに職人的で堅実な作り手になるところが興味深い。
 巨大企業・環境汚染・立ち上がる住民という取り合わせには既視感がある。チッソを相手取った水俣の住民の闘いである。この映画でも、連想させるシーンがいくつかある。

 1998年、米オハイオ州シンシナティ。弁護士ロブ・ビロット(マーク・ラファロ)は企業を顧客とする大手事務所に所属していた。ある日、出身地ウェストバージニアから農場を経営するウィルバー・テナント(ビル・キャンプ)がビデオテープをもって訪れた。そこにはどす黒い水が流れる川、原因不明のまま次々と死んで行く牛の様子が映されていた。
 ロブはいったん依頼を断るが、仲介者が祖母であることを知り渋々現地パーカーズバーグへ向かう。目撃したのは目を血走らせて狂ったように走り回る牛や犬の姿だった(水俣の猫踊りを連想させる)。
 テナントによれば川の水には化学物質が混じり、デュポンの工場から出たという。変死した牛は190頭に及び、解剖すると内臓はいずれも異常な状態にあった。
 事務所の上司や同僚たちの忠告をよそに、ロブは原因究明に立ち上がった。デュポンに廃棄物の資料開示を求め、その中に不審な物質を見つけた。PFOSもしくはPFOAC-8とも表記されていた。容易に分からなかったが、ある化学専門家のアドバイスが手掛かりになった。炭素を鎖状に8個並べた、熱や衝撃に強い物質。戦車のコーティングなど兵器にも使われるが、家庭用ではフライパンのテフロン加工に使用されるという。有機フッ素化合物で人体に悪影響を及ぼすが、廃棄しても分解されることはないという。
 闘いは順風満帆とはいかなかった。テナントは「デュポンを訴えた男」と地元紙に報じられ、肩身の狭い思いをする。町にはデュポンから多額のカネが落ちていた。ロブは化学業界の集まりでデュポン社の専属弁護士にPFOAとは何か尋ね、怒鳴りつけられる。見ていた元弁護士の妻との間もぎくしゃくする。公私とも行き詰まる中、賠償金による和解に心を動かすが「カネなどいらん、企業の幹部に罰を」というテナントらの言葉に立ち直る(ここも、水俣を連想させる)。
 20年に及んだロブの闘いは実るのか…。
 2019年、米国。監督トッド・ヘインズ。この事件では2018年、優れたドキュメンタリー「既知の悪魔(The Devil We Know)」が作られた。

 実はこの話、海の向こうのことで日本には関係ない、ではすまない。2019年の気候変動枠組条約締約国会議第9回会合(COP9)でPFOA及び関連物質は製造をやめるべき物質に追加指定された。直後の2020年4月、沖縄・米軍普天間飛行場でPFOSを含む消火剤が基地外に大量に流出する事故が起きた。地位協定の壁のため真相解明は進んでいない。環境省はCOP9決定を受けて規制指針を設けたが法的拘束力はなく実効性は疑問視される。


ダークウォーターズ.jpg


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