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ノルウェー政府の「加担」明らかに~映画「ホロコーストの罪人」 [映画時評]

ノルウェー政府の「加担」明らかに~映画「ホロコーストの罪人」


 第二次大戦下の北欧三国は、それぞれ違った道を歩んだ。スウェーデンは軍事力を整備、一貫して中立政策を取った。フィンランドはロシア革命後、深刻な内戦を経て中立政策を取ったが、ソ連とドイツの脅威を前に、親ナチ路線を選択した。ノルウェーは1940年のドイツ侵攻により占領された。
 ナチ占領下のノルウェーで何が起こったか。フランス・ヴィシー政権が加担したユダヤ人虐殺を描く「サラの鍵」は印象に残る作品だったが、「ホロコーストの罪人」はノルウェー政府が加担したユダヤ人虐殺の記録である。「サラの鍵」ほどドラマチックなつくりではなく、オーソドックスにユダヤ人のある一家の暗転した運命を追った。
 ブラウデ家のチャールズ(ヤーコブ・オフテブロ)は非ユダヤ人ラグンヒル(クリスティン・クヤトゥ・ソープ)と結婚。幸せな日々を送っていた。しかし1940年4月のドイツ侵攻によって事態は一変。ブラウデ家の男性は全員、ベルグ収容所に送られ過酷な日々を送った。残された母とラグンヒルは身の安全を図るためスウェーデンへの逃亡を計画する。
 19421126日、運命の日がやってきた。ノルウェー秘密国家警察のクヌート・ロッド(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)指揮のもと、国内に残るユダヤ人が一斉に連行された。母もいったんは逃亡を図ったが逃げ切れなかった。
 こうしてベルグ収容所の大半(一部は残留)と、この日連行されたユダヤ人はオスロ港に停泊する「ドナウ号」に強制乗船させられた。向かった先はアウシュビッツ絶滅収容所だった。
 2012年、ノルウェー政府は国ぐるみでユダヤ人虐殺に加担したことを明らかにし、謝罪したという。政府によると、アウシュビッツに送られたユダヤ人は773人、うち735人が亡くなった。スウェーデンへの亡命者は1200人だったという。ノルウェーの自己批判映画ともいえるもので、それだけの「重さ」は感じる。
 ところで、ノルウェー政府はなぜこれほど簡単にユダヤ人虐殺に加担したのだろうか。ドイツ軍の脅威だけでは説明がつかない、ユダヤ人に対する差別感情がヨーロッパ全体に底流としてあったためではないだろうか。ユダヤ人強制連行を非情に進めたクヌート・ロッドは「凡庸な悪」を体現して、アンナ・ハーレントが描いたアイヒマンを連想させる。

 2020年、ノルウェー製作。監督エイリーク・スヴェンソン。


ホロコーストの罪人.jpg


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