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火花散らす国家意思と個人の情念~映画「復讐者たち」 [映画時評]

火花散らす国家意思と個人の情念~映画「復讐者たち」


 戦争を始め、終わらせるのは国家の意思である。しかし、戦争によって家族や知人を失ったものたちは、こうした国家のタイムスケジュールに収まり切らない情念を抱え込む。
 高橋和巳の「散華」は元特攻の生き残りで電力会社に勤める男と、彼が用地買収交渉のため訪れた孤島の老人のダイアローグの物語である。老人は戦争を進める立場にいた。しかし、二人の間には戦場に行かせたものと行かされたもの、と割り切ってしまえない何かがあった―手元に原本がないので記憶頼りだが、こんな内容だったように思う。
 言いたいことは、戦争で深い傷を負った者も負わせた者も、引きずる情念は国家レベルでは到底すくいきれない、ということだ。ユダヤ人虐殺の「その後」を描いたイスラエル、ドイツ合作「復讐者たち」もそんな映画だ(イスラエル、ドイツ合作というところがすごい。「虐殺」の加害と被害の直接当事国である)。

 1945年、ベルリン。ユダヤ人のマックス(アウグスト・ディール)は、収容所で生き別れた妻子を捜していた。家族のことを密告したドイツ人を訪れ手掛かりを探るが、暴力的に追い払われてしまう。そうしているうち、偶然にも英国軍傘下のユダヤ人旅団ミハイル(マイケル・アローニ)に助けられる。旅団は密かに元ナチ将校たちを探し出し、拷問・処刑を行っていた。やがて妻子の死を知ったマックスも、絶望の淵の中で加わる。
 旅団のリストをもとに次々「処刑」をしていくうち、マックスは別のユダヤ人組織が存在することを知る。ナチ幹部だけでなく、ドイツ人を無差別に殺害しようとする「ナカム(ヘブライ語で「復讐」)」である。
 旅団はこうした動きに批判的だった。無差別殺害を実行すれば、ナチのユダヤ人虐殺と同じ水準になる。既にこのころ、ユダヤ人国家「イスラエル」建国の動きが始まっていた。こうした中、世界の世論を敵に回す行為はよくない、というものだった。
 そこでミハイルはナカム監視役となり、マックスを組織に送りこむ。マックスはアンナ(シルヴィア・フークス)らと対話するうち次第に共感する。
 組織では、戦争犯罪を裁くため連合国軍が集結していたニュールンベルグを舞台に、驚愕の「Aプラン」が進められていた。水道の水源地に毒を撒き、無差別に市民を殺害しようとするものだった。既に組織のトップが毒を入手するためパレスチナに飛んでいた。未曽有の復讐計画は成功するのか…。
 2020年、監督:ドロン・パズ、ヨアブ・パズ。国家の意思と個人の情念が火花を散らして歴史の歯車を回す。そんな情景が描かれている。


復讐者たち.jpg


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