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「日常」を引きずるボンド~映画「007ノータイム・トゥ・ダイ」 [映画時評]

「日常」を引きずるボンド~
映画「007ノータイム・トゥ・ダイ」


 ダニエル・クレイグが演じる5作目の、そして最後のジェームズ・ボンド。彼のシリーズはアクション重視の傾向が強く、今回も「まあ、派手な立ち回りが楽しめればいいか」ぐらいの気持ちで観たが、いい意味で予想が外れた。意外に人間ドラマ、ラストはメロドラマの要素が絡んで(「007」シリーズではなかったこと)それなりに厚みを感じた。

 前作「007スペクター」のラストで、引退したボンドとアストンマーチンに乗り、どこかへ去ったマドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)が今回もヒロイン。彼女が幼いころ、母が殺されるシーンから始まる。殺害者はなぜか、能面をかぶっている(その謎は最後まで回収されず)。目撃したマドレーヌは凍った湖面を逃げるが、氷が割れ絶体絶命。しかし、なぜか能面の男に助けられる。この冒頭のシークエンスは印象的ではあるが、ドラマ全体でどのような意味を持つのかが若干不明。
 場面は変わり、ボンドはジャマイカでマドレーヌと平穏な生活を送っていた。ある日、かつての女性を忘れるため訪れた墓が爆破され、間一髪生きのびる。なぜ行動が事前に漏れたのか、ボンドはマドレーヌを疑い、別れを告げた。
 優雅な引退生活を送るボンドのもとへ、CIAの旧友フェリックス・ライター(ジェフリー・ライト)が現れ、ロシア科学者ヴァルド・オブルチェフ(デヴィッド・デンシック)の救出を依頼する。彼が開発したDNAナノロボ「ヘラクルス」が、ある組織に悪用されようとしているというのだ(この兵器がどんな仕組みでどんな効果があるのか、よく分からず)。
 ボンドは当初断ったが、兵器開発にMI6が絡んだ節があり、結局引き受ける。部長のMらを問い詰めたところ、兵器はMI6がスペクターに対抗するため開発を指示したが、リューツィファー・サフィン(ラミ・マレック、「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディ・マーキュリーが印象深い)の組織に横取りされたことが判明。サフィンは、かつての能面の男だった。
 こうして役者がそろい、以下はアクション、アクション。そしてなぜか、別れたはずのマドレーヌと彼女の子マチルドが加わる。

 ストーリーの詳細は避けるが、最終的にマチルドはボンドの子であることが判明。何とボンドは子持ちだったのだ。さらにボンドはサフィンとの死闘の中で「ヘラクルス」に感染。マドレーヌと我が子に触れることができなくなったボンドは、傷心の中でこの新兵器開発プラントである孤島へのミサイル攻撃を指示する。島に仁王立ちで爆風を浴びるボンド。
 前作に引き続いて一人の女性への愛を貫くボンド。しかし、それは実ることはない。
 と、最後はメロドラマで終わる。この展開は、これまでの007シリーズにはなかった。日常を引きずらないからこそボンドはボンドだった。だからこそ、スパイが思いっきり日常を引きずるジョン・ル・カレの「寒い国から帰ってきたスパイ」やスマイリーシリーズが生まれたといえる。「ノータイム・トゥ・ダイ」で、ボンドはほんの数ミリ、ジョン・ル・カレに接近したのかもしれない。
 で、「007」の次作はどうなるか。「ノータイム・トゥ・ダイ」の中に伏線があった。「007」の後継を名乗る女性が登場したことだ。「007」は永久欠番ではない、といっている。ここにヒントがありそうだ。
 2021年、米国。監督はキャリー・ジョージ・フクナガ。今村昌平や是枝裕和に影響されたらしい。少し分かる気がする。


 ノ―タイムトゥーダイ.jpg


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