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「不老不死」の人生は幸福か~映画「Arcアーク」 [映画時評]

「不老不死」の人生は幸福か~映画「Arcアーク」


 人間は「老い」や「死」に漠然と怖れを感じている。できることなら避けたいとも思う。しかし、本当に不老不死が実現したら、終わりのない人生を送れるとしたら、人間は幸せなのか。そんな哲学的命題を近未来SFのかたちで提示したのが「Arcアーク」である。

 17歳のリナ(芳根京子)は男の子を生み、放置したまま病室を後にした。海岸に出ると、万国旗をはためかせた灯台があった。
 2年後、荒れた生活を送るリナはあるパーティーに顔を出し激しく踊った。パーティーを主催するエマ(寺島しのぶ)の目に留まり「あなたの若さは価値がある」と伝えた。渡された名刺を頼りにリナが訪れたのは、プラスティネーション(遺体永久保存)を施す会社だった。遺族から要望が後を絶たず盛況のようだった。
 エマの弟アマネ(岡田将生)は先端技術を行く科学者だった。プラスティネーションを発展させ、肉体の老いや死を回避する施術法を開発。アマネとやがて結婚するリナは、不老不死へと肉体を改造する世界で最初の人間になった。
 こうしてリナは、30歳のまま永遠に生きることが可能になった。

 さて、本題はここからである。アマネは遺伝子異常によって不老不死が完全な形にならず、老いてこの世を去った。89歳になったリナは、島に施設を造って暮らした。不老不死の技術が一般化するにつれ、世界は「舟に乗れた人」と「乗れなかった人」に二分された。乗れなかった人たちの老後のために造った施設だった。
 ある日、末期がんの妻フミ(風吹ジュン)を連れた初老の男性リヒト(小林薫)が訪れた。妻を施設に入れ、自分は近所で暮らすという。リヒトはリナの5歳の娘ハルと仲良くなった。ハルが普段描いている画集を開くと、リヒトの絵が1枚混じっていた。リナが、かつて男の子を捨てた直後に見た、あの灯台だった…。
 こうして70年余ぶりに巡り合った母子は愛憎入り交じる中、不老不死の施術を受けることの是非をめぐって火花を散らした。
 135歳になったリナ(倍賞千恵子)は、すっかり老いていた。妻を亡くしたリヒトは船で沖合に出たまま帰ることはなかった。それを機に、リナは不老不死の手当てをやめた。人生は永遠がいいのか、始まりと終わりがあるべきなのか。リナも含めて誰にも分からない命題だった。

 100年以上の時間軸を127分で見せ、しかも逆回転する部分もあるのでなかなか忙しい(しかも、芳根は見た目変わらないからなおさら混乱しそう)。印象的なのは小林薫の重厚さ。対する芳根も引けを取らない好演。題名「Arc」は「円弧」のこと。円は輪廻転生を連想させるが、円弧はその一部に過ぎない。いくつもの円弧がつながって円は完成する。人の生もまた同じ、と言っているようである。
 ケン・リュウの原作を映像化した。監督は石川慶。2021年、日本。


アーク.jpg


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