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融解する過去たち~映画「海辺の家族たち」 [映画時評]

融解する過去たち~映画「海辺の家族たち」


 父が倒れ、生まれ育った村に帰ってきた。マルセイユ近く、高架が走る小さな漁村。女優として名を成したアンジェル(アリアンヌ・アスカリッド)にとって20年ぶりである。出迎えた兄アルマン(ジェラール・メイラン)は、父のレストランを継いでいる。次兄のジョゼフ(ジャン=ピエール・ダルッサン)は若い婚約者を連れていた。最近、リストラされたばかりだった。
 老境に差し掛かった3人は、それぞれ人生にわだかまりや行き詰まりを感じていた。それらが、村で起きる小さな出来事に触発されるように明らかになる。アンジェルがなぜ20年も帰ってこなかったかも、明らかになる。
 隣人夫婦の自死。アラブ難民の幼子たちとの共生。村の青年による、アンジェルへの告白。しかし、それらは「事件」としてではなく、日常の一風景のように描かれる。突然の訪問者である難民の幼子に対して、警戒中の兵士らに通報すればすむのだが、それをせず衣服や食料を提供する。
 ストーリーらしきものはほとんどなく、セリフも極めて少なく、カメラワークは正攻法。心模様を描いた短編小説の味わいだ。
 時おり海辺の高架を走る電車が印象的だ。ラストシーンで、3人がかつてそうしたようにお互いの名を呼び合う。心にあったわだかまりを融解するように。どうやら、電車には「過去」という名の乗客が乗っていたらしい。
 ロベール・ゲディギャン監督。2021年、フランス。


海辺の家族たち2のコピー.jpg


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