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生きづらい世を生きる~映画「茜色に焼かれる」 [映画時評]

生きづらい世を生きる~映画「茜色に焼かれる」


 田中良子(尾野真千子)の夫陽一(オダギリジョー)の死はあっけなかった。元高級官僚がアクセルとブレーキを踏み違え、横断中の陽一をはねたのだった。刑事責任を問われることもなかった加害の側は賠償金を提示したが、全額保険金から出ており謝罪の言葉もなかった。良子はカネを受け取らなかった。
 事故から7年、アルツハイマー病の加害者は90歳を超えて亡くなった。良子は、相手の顔を忘れないようにと葬儀会場に出向いたが「脅迫まがい」と遺族らに追い返された。
 良子には中学生の息子・純平(和田庵)がいた。生計のため昼間は花屋のアルバイト、夜は風俗の店で働いた。必死に生きる良子と純平に、次々と理不尽な出来事が降りかかった。そもそも、あの事故自体が理不尽なものではなかったか…。
 しかし、良子は「まあ、頑張りまっしょ」を口癖に、へらへらと受け流して生きていく。
 純平が学校でいじめにあっていることを知り抗議に行くが、愛想笑いを浮かべ取り合わない教師。花屋から突然言い渡された解雇通知。偶然再会した中学の同級生との交際と裏切り。さすがに胸に収めかねた良子は風俗店の同僚・ケイ(片山友希)に打ち明け、不思議な連帯感を持つ。実はケイには、良子を上回る不幸の自分史があった。
 良子、純平、ケイの、生きづらい世の中を懸命に生きようとする姿に比べ、周囲のなんと軽薄で無責任なこと。そんな中で風俗店の店長・中村(永瀬正敏)がいい味を出していた。
 尾野真千子は、いつもながら文句なしの存在感。かつてアングラ演劇の女王と呼ばれた、ただならぬ感じもうまく醸している。監督は「夜空はいつでも最高密度の青色だ」の石井裕也。都会でのアイデンティティーの喪失と不条理性に抗い生きる姿を描く、という点で二つの作品は共通する。


茜色に焼かれる.jpg

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