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アンチ・ロマンの映像~映画「水を抱く女」 [映画時評]

アンチ・ロマンの映像~映画「水を抱く女」


 観おわって「うーむ」とうなった。恋愛もののようであり、ホラーのようであり。何より、モチーフはギリシャ神話に端を発する。日本でいえば悲恋の怪談めいたつくり、といえばいいだろうか。
 原題は「Undine」。「オンディーヌ」で流通している水の精の物語を下敷きにしたことをうかがわせる。映画では、主役の女性がUndineを名乗る。
 ウンディーヌ(パウラ・ベーア)はベルリン史の研究者である。ベルリン市住宅都市開発省の資料館でガイドをして生計を立てている。彼女にはヨハネス(ヤコブ・マッチエンツ)という恋人がいた。映画の冒頭、カフェの野外席に座る二人の間に気まずい雰囲気が漂う。男が別れ話を切り出したのだ。「わたしを捨てたら、殺すわよ」とウンディーヌは答えた。単なる脅し文句ではなかった…。
 「Undine」はもともと水に住み、男に愛された時だけ人間としての魂を得る。裏切られた時は相手を殺し水の世界に戻らなければならない、という。
 入れ替わるように、ウンディーヌの前に一人の男が現れた。潜水士のクリストフ(フランツ・ロゴフスキ)で、二人は潜水を楽しむようになった。しかし、ウンディーヌにはためらいがあった。
 潜水作業中のクリストフを事故が襲った。機器の故障で12分間の酸欠に陥り、脳死状態になったのだ。そのころ、ウンディーヌは、裏切った男の自宅プールで殺害を決行する。
 ウンディーヌが人間の魂を失ったと同時に、クリストフは奇跡的に脳死状態から脱する。こうしてウンディーヌは湖の底に戻っていく…。
 文字にすればファンタジックな印象が漂うが、映画自体はホラーやミステリーの味わいが濃い。そこにバッハのピアノ曲がかぶさる。濃密である。主人公のキャラクターもインテリに仕立てられ、硬質である。つまり、ファンタジーとは対極にある。
 監督は「東ベルリンから来た女」のクリスティアン・ペッツォルト。精密画を描くような手腕は健在だ。ヤコブ・マッチエンツは「ある画家の数奇な運命」、フランツ・ロゴフスキは「希望の灯り」で知られる。実力派が組んだアンチ・ロマンの映像。好みが分かれる作品かもしれない。
 2020年、ドイツ、フランス合作。


水を抱く女.jpg


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