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緊迫感溢れる密室劇~映画「KCIA 南山の部長たち」 [映画時評]

緊迫感溢れる密室劇~映画「KCIA 南山の部長たち」

 今も記憶に残る。19791026日、韓国の朴正熙大統領がソウル市内で暗殺された。翌朝、戒厳令が敷かれ街頭を戦車が埋めた。実行者はKCIA部長の金載圭。大統領の最側近といわれた人物だった。動機は今も不明である。
 事件に至るまでの40日間を再現したのが、この作品である。ノンフィクション「実録KCIA―『南山と呼ばれた男たち』」がベースになっている。映画では大統領以外は仮名で、冒頭部分でフィクションと断ってある。したがって、内容をそのまま事実と認定するのは危険であろう。描かれたのは、1961年のクーデター以来、絶対権力者であった人物と側近の権力闘争の構図で、ほぼ密室劇である。事件関係者は、死刑となった金載圭を含め生存者はいない。真相は闇の中である。

 亡命したKCIAの元部長パク・ヨンガク(クアク・ドウォン)が米下院で、韓国大統領の腐敗ぶりを証言した。執筆中の回想録でも明るみに出すという。朴大統領(パク・チョンヒ=イ・ソンミン)はそれを聞き激怒した。側近であるクァク・サンチョン警護室長(イ・ヒジュン)はKCIAのキム・ギュピョン部長(イ・ビョンホン)を激しく追及した。追いつめられたキム部長はパク元部長暗殺に動く。
 釜山で学生や市民の暴動が起きていた。クァク警護室長は軍事力で弾圧する強硬路線を主張、平和裏に解決を求めるキム部長と対立した。大統領は、キム部長の弱腰を批判。崖っぷちに立たされた思いのキム部長は、大統領と側近だけで行われた会合に臨み、大統領に銃口を向けた…。
 映画では、民主化勢力への対応をめぐる路線対立が原因のように描かれているが、真相はやはり闇のままである。事件後、金載圭部長は陸軍に逮捕され死刑判決を受けたが、事件処理を行った全斗煥国軍保安司令官は翌年の光州事件に強行策をとった後、大統領に就任した。民主化勢力にとっての夜明けは遠のいた。

 政界は嫉妬の海という。ノンフィクション作家の塩田潮によると、この言葉を残したのは1995年、自民党総裁選で橋本龍太郎に敗れた小泉純一郎【注】。韓国でつくられたこの映画でも、描かれたのは権力者を中心にした「嫉妬の海」であったのかもしれない。それにしても、韓国映画はこうした緊迫感溢れるドキュメンタリータッチの作品を作るのが実にうまい。
 2020年、韓国。

【注】「欲望と嫉妬の海 日本政治・8人の権力闘争」(2000年、学陽書房)から。


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