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占領下を生き抜いた女性~映画「ソニア ナチスの女スパイ」 [映画時評]

占領下を生き抜いた女性~
映画「ソニア ナチスの女スパイ」


 米ソ冷戦時代にはノルディックバランスで知られた北欧三国も、第二次大戦下ではナチスの脅威にさらされた。ノルウェーは1940年、ドイツ侵攻から2カ月で降伏、フィンランドはロシア革命後、ソ連とドイツのはざまで深刻な内戦状態に陥り、第二次大戦では枢軸国の側についた。大国スウェーデンは辛くも中立を保った。そんな第二次大戦下のノルウェーに実在した女性スパイ、それもダブルクロスと呼ばれる二重スパイを描いた。

 ナチ占領下のノルウェー。ソニア・ヴィーゲット(イングリッド・ボルゾ・ベルダル)は美貌で知られた女優だった。出演作を選ばず、ナチ礼賛映画にも出た。傀儡政権のノルウェーで実権を握るヨーゼフ・テアボーフェン国家弁務官(アレクサンダー・シェーア)は彼女の人気に目をつけ、プロパガンダ利用を画策する。そんな折り、ゲッペルス宣伝相が出席する晩さん会への招待状がソニアに届いた。彼女の夫で映画監督のライフ・シンディングは、映画作りが有利になると出席を頼むが、ソニアは断った。父と弟がレジスタンスに参加しており、ナチに嫌悪感を持ったためだった。
 ソニアに、一人の男が接近してきた。スウェーデンで保険会社を経営するトルステン・アクレル(ロルフ・ラスゴード)。裏ではスウェーデン諜報部員としてナチの内情を探っていた。そのためのスパイに仕立てようという意図だった。一方、ゲッペルスが出席した晩さん会はソニア不在のため不興だった。怒ったテアボーフェンはソニアの父を拘束、強制収容所に送った。ソニアは父を解放するためアクレルに助力を頼んだ。アクレルは、スウェーデン大使館で開くある会合への出席を指示。ソニアはその席でテアボーフェンに詫びを入れ、修復に成功する。やがてテアボーフェンの寵愛を受けたソニアは、彼の部屋からナチの軍事機密を盗みだした。
 ソニアの前にハンガリー大使館員アンドル・ゲラート(ダミアン・シャペル)が現れた。ジャズをピアノ演奏する洒脱さにソニアはひかれる。しかし、謎の動きが多い彼もまたスパイなのか。そして、テアボーフェンから、父を自由にする代わりにスウェーデンなど北欧各国の情報を収集するよう依頼された…。

 戦後、ソニアはスウェーデンで家族と暮らしたという。ナチの追跡を逃れたアンドルともついに結ばれることはなかった。二重スパイの汚名は消えず、戦後のスクリーンに復活することはなかった。
 フィンランドの過酷な内戦を描いた映画に「4月の涙」(2009年、フィンランド、ドイツ、ギリシャ合作)がある。インテリ男のひ弱さを乗り越えて生きる女性のたくましさがあった。この「ソニア…」もまた、ナチ占領下を生きる女性のたくましさがある、といえようか。複雑な事実を淡々と描いた秀作である。
 2019年、ノルウェー。英題はずばり「The Spy」。


ソニア.jpg


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