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平凡な日常を襲う事件の波~映画「望み」 [映画時評]

平凡な日常を襲う事件の波~映画「望み」

 

 埼玉県戸沢市(架空の市)に住む石川一登(堤真一)は建築設計士。マイホームはその人の生き方を表すというのが持論である。事務所に隣接し、折に触れ顧客に披露する自宅もそうした建築思想にあふれていた。アイランド方式の流し、2階へと通じる階段はオープンで、玄関は明るい吹き抜け。出版社をやめ、今はフリーの校正者をしている妻・貴代美(石田ゆり子)の仕事場もリビングの一角にある。親子の意思疎通を優先した結果と説明している。

 夫婦には高一の規士(岡田健史)と中三の雅(清原果耶)がいた。だれもがうらやむと思われた家庭にさざ波が立ち始めた。規士は中学までサッカーに熱中していたがひざを痛めて断念。挫折感が心にわだかまりを生み、生活が荒れ始めていた。その規士が突然、消息を絶った。同時に、少年の遺体が発見される事件が起きた。規士は事件にかかわりがあるのか。あるとすれば被害者なのか加害者なのか。

 被害者とすれば、もう生きていないかもしれない。加害者とすれば、殺人犯なのか。そのうち、事件との関連をかぎつけたメディアの取材攻勢が始まる。週刊誌記者の内藤重彦(松田翔太)も個別に貴代美と接触を図る。貴代美は、どんな形でもいいから生きていてほしいと願う。一登は、もし殺人犯だとすれば、家庭は跡形もなく崩壊すると憂う。どちらにしても一家は、これまでと同じ生活を送ることはできなくなる…。

 雫井侑介の原作は、事件に直面した家族の心理の襞を丹念に追い、事件小説というより家族小説といった趣を醸し出す。映画は、そうした原作の味わいを殺さないよう、丹念に映像化している。冒頭に書いた、一家のマイホームの構造と規士の心の闇とが鮮明な対比となって浮かび上がる。いつでもどこでも、平凡な家庭の日常の中で生まれるかもしれない亀裂を描いているだけに迫真力がある。

 事件によって引き裂かれる一家の姿は痛ましいが、描かれた陰画をそのまま反転させれば、家族とはどうあるべきかが見えてくる。そこに希望を見出すことができれば、この映画を観た価値があるというものだろう。

 2020年、日本。監督は「人魚の眠る家」の堤幸彦。

 

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