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日本でこのストーリーは可能か~映画「オフィシャル・シークレット」 [映画時評]

日本でこのストーリーは可能か~

映画「オフィシャル・シークレット」

 

 2001年の911米同時多発テロに対してブッシュJr米大統領は「テロとの戦い」を宣言、アフガン、イラクに侵攻した。イラクに対しては無差別大量破壊兵器を極秘に開発、所有しているとしたが、国際機関の調査でも痕跡は認められなかった。大義なき戦争に最も寄り添ったのがブレア英政権だった。独断的な参戦に対して独立検証委員会(チルコット委員会)が2009年に立ち上げられ、2016年に260万語に及ぶ報告書を作成し「イラク戦争への参戦は不可避ではなく、法的にも不備があった」と結論づけた。ブレア元首相ら150人から聞き取り調査を行い、2012年にA4判4枚の概要を公表しただけの日本の外務省とは大きく違っていた。

 このときの英国の「検証」は今でも高く評価されている。そして並んで取り上げられるのが日本の貧困さだった。

 映画「オフィシャル・シークレット」は、このころ英政府通信本部(GCHQ)に勤務していた女性職員の行動を描いた。キャサリン・ガン(キーラ・ナイトレイ)はある日、驚くべきメールを目にする。米国家安全保障局(NSA)からで、国連安保理の非常任理事国のメールを監視しろという内容だった。米国のイラク開戦に反対する勢力に工作活動を行い、有利な国際世論を生み出すためだった。

 戦争へとひた走る米英政府に怒りを覚えたキャサリンはメールをコピー、ある人物を通じてメディアに持ち込んだ。真偽をめぐって揺れた各社の中で、オブザーバー紙はメールの内容を公表した。陰にはマーティン・ブライト記者(マット・スミス)の勇気と執念があった。GCHQではすぐに厳しい「犯人捜し」が始まった。仲間を疑惑の目にさらしたままでは耐えられないとキャサリンは名乗り出た…。

 舞台は法廷に移された。ここで予期せぬことが起きる。検察が公訴を取り下げたのだ。戦争には法的な不備があることを権力の側が認めたのだった。ちなみにイラクとの開戦は2003年。その翌年にはこのような機運があったことになる。

 こんなストーリーが成り立つのだろうか。しかし、この展開を荒唐無稽と思うのは、戦争の違法性など権力の側がどこまで行っても認めない日本ならではのことなのだ(アジア・太平洋戦争だってまともな検証は行われていない)。冒頭にあげた「ブレアの戦争を問う」作業が行われる英国だからこそ、真実性をもって受け止められるのだ。映画を観て、日本もこうあってほしいと思った市民はどれくらいいただろうか。

監督は「アイ・イン・ザスカイ 世界一安全な戦場」で無人兵器による現代の戦争の非人間性を描いたギャヴィン・フッド。2019年、英米合作。

 

オフィシャル・シークレットのコピー.jpg


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