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今のアメリカにはないもの~映画「幸せへのまわり道」 [映画時評]

今のアメリカにはないもの~映画「幸せへのまわり道」

 

 エスクァイア誌の記者ロイド・ボーゲル(マシュー・リス)は華々しいキャリアをひっさげ、妻と生まれたばかりの子と暮らしていた。しかし、彼には家庭内の悩みがあった。幼いころ家を出ていった父へのわだかまりである。先日も姉の結婚式で、久々に顔を合わせた父とトラブルを起こしたばかり。そんな折り、ある子供番組の司会者フレッド・ロジャース(トム・ハンクス)のインタビューを依頼された。こうしてロイドとフレッドの交流が始まった…。

 編集部からは「シンプルなインタビュー記事でいい」といわれていたが、ロイドはフレッドの人間性にただならぬものを感じていた。そこで、簡単な記事にはせず、フレッドの人間性に迫る記事に仕立てることに心を砕いた。記事はエスクァイア誌の巻頭を飾った。

 一方のフレッドも、ロイドが心のうちに抱える何かに気づいていた。そして、感情をコントロールすること、それには努力と訓練が必要であること、聖書を読むこと―といったアドバイスをする。父へのわだかまりを告白したロイドに「お父さんの影響があったからこそ、今の君がある」と答えた。

 

 トランプ大統領の下、多様性と分断の国アメリカでよくこんな映画が作れるな、というのが第一の感想。いや、アメリカがそんな国だからこそ、こんな映画ができるのか。そう思うと、子供番組で猫なで声を出すトム・ハンクスの演技もすごい。ロイドに対して人生相談のようなセリフを臆面もなく語るが、これもトランプ思想の裏返しか。そう思い始めると、スクリーンでは「聖人」として登場するフレッドをそのまま信じて(受け入れて)いいものか、との感情が湧いてくる。ひょっとしてハンクスが演じたのはテレビという媒体を通した稀代の詐欺師、洗脳師なのか。そう読むのが正しいかどうか分からないが、少なくともそこまで裏があったほうが作品として奥深いことは確かなのだ。それとも、そんな読み方をする方がひねくれているのか。

 個人的には邦題より原題「A Beautiful Day in the Neighborhood」(ご近所との素晴らしい日々、Neighborhoodはロジャーズの番組タイトルから来ている)のほうが気に入っている。いろいろ書いたが、少なくとも今のアメリカにはないもの、消えつつあるものを、この映画は逆説的に描きたかったのだろう。2019年、アメリカ。トム・ハンクスとマシュー・リスは「ペンタゴン・ペーパーズ」(2017)でも共演した。

 

幸せへのまわり道.jpg


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