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殺人犯の異常心理と刑事の執念~映画「暗数殺人」 [映画時評]

殺人犯の異常心理と刑事の執念~映画「暗数殺人」

 

 ここでいう「暗数」とは、捜査機関が覚知した犯罪件数と実際の犯罪件数の差を指している。つまり、当局が察知していない犯罪の件数のこと。韓国映画「暗数殺人」は釜山で起きた実際の事件をベースにつくられたという。

 麻薬捜査をしていたキム・ヒョンミン(キム・ユンソク)は偶然、カン・テオ(チュ・ジフン)の逮捕現場に居合わせた。その後、カン・テオに呼び出されたキム・ヒョンミンは衝撃の告白を受ける。直接の逮捕容疑である恋人殺害だけでなく、7人を殺したというのだ。供述はいかにも真実らしかった。しかし、証拠は何もない。

 あらためてテオの供述に基づき恋人殺害の現場を捜査したヒョンミンは、犯行を裏付ける証拠を発見。それは同時に、テオ逮捕のためにそろえられた捜査陣の証拠を否定するもので、判決は求刑を5年下回る懲役15年となった。ヒョンミンと当局の間に埋めがたい溝ができ、やがて麻薬捜査課から刑事課に異動したヒョンミンは6人殺害の裏付け捜査を単独で始める…。

 見どころは、犯行をほのめかしながらすべてを明かさないテオの異常心理である。事件を箇条書きにして紙に残すものの、具体的な内容には立ち入らない。供述に基づいて起訴しても法廷で覆される。虚言と真実を織り交ぜ、時に逆上し時に媚びてみせるテオの狙いは何なのか。

 エキセントリックなテオのキャラクターに反比例して、ヒョンミンは才気よりも地味な努力を執念深く積み上げていく。刑事を手玉にとろうとするテオの心理には目もくれず、ただ被害者の無念を思い、捜査に情熱を燃やす。

 テオを演じたチュ・ジフンは怪演。ヒョンミン役のキム・ユンソクは「1987、ある闘いの真実」で韓国民主化勢力を弾圧する側を演じた。

 殺人犯の奇妙な心理と向き合う捜査官、という構図は「羊たちの沈黙」に似ていなくもない。底なし沼にはまっていく感のある「羊たち…」ほどのスリルはないにしても、この手の作品を作れば韓国映画は手練れているな、と思わせる。2018年製作。



暗数殺人のコピー.jpg



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