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「ニューレフト」を詳細に分析~濫読日記 [濫読日記]

「ニューレフト」を詳細に分析~濫読日記

 

「戦後『社会科学』の思想 丸山眞男から新保守主義まで」(森政稔著)

 

 タイトルに「社会科学」という言葉が使われている。我々が若いころ、社会科学とはマルクス主義とほぼ同義であった。資本論を研究するサークルは「社研=社会科学研究サークル」と呼ばれていたと記憶する。冒頭、著者は、一時期使われた狭義のそれではなく、個別の社会領域を超えた、社会にヴィジョンを与えるような知的営み、と広義にとらえると再定義、この本の出発点としている。

 そのうえで著者は「戦後」という時代を大きく4章に分ける。①「『戦後』からの出発」は、丸山眞男のファシズム批判とマルクス主義との関係②「大衆社会の到来」は、60年安保闘争以降に訪れた大衆社会をめぐる思想の紹介。取り上げたのはE・フロムやD・リースマン、A・ハレント、日本では松下圭一ら③「ニューレフトの時代」は60年代後半から70年代初頭にかけての学生の叛乱と、そこから生まれた思想潮流④は「新自由主義、新保守主義への転回」。

 いずれも興味深いが、特に注目すべきは第3部「ニューレフトの時代」であろう。俗に「1968」と呼ばれる世界的な叛乱は政治、文化を始めさまざまな分野に影響を及ぼしたが、その底流の思想も含め詳細に語られたことがあまりない(少なくとも私の見聞する限りでは)。その意味で貴重である。

 (念のためいえば、著者は1959年生まれ。この世代は10歳上の「団塊」と呼ばれる我々世代に対して「鬱陶しい」という感覚を持ちがちで、最初から議論を避けるきらいがある。そうしたことを踏まえても「ニューレフト」言及は貴重)

 まず、この時代を著者は「ヤヌスの時代」と呼ぶ。マルクス主義とともに資本主義が力を持つ「双面の時代」だった。同時に高度経済成長の後半、古いものと新しいものが共存した時代でもあった。その分、思想的エネルギーが満ちていたともいえる。象徴的な出来事としてはベトナム戦争の激化とプラハの春。すなわちアメリカとソ連、どちらに付くか、ではなく「どちらもダメ」という時代思想が主流だった。

 そうした時代背景の中で団塊の世代特有の思想が生まれる。崩壊する共同体、大学生=エリートという旧来の構図の喪失。これらが「モラトリアム」(エリク・エリクソン)という言葉を生み出した。「共同体と個」が模索され、サルトルがもてはやされた(私は好きではなかったが)。

 この時代を象徴する言葉として「自由と解放」がある。その説明が明快だ。解放は自由の必要条件だが、解放がそのまま自由につながるわけではない。特に60-70年に多用された「解放」には特別な意味が込められた。外部からの抑圧だけでなく、自己の内部にある支配的なものからの脱却こそが解放であるとされた。このころ使われた「自己否定」も、表面上は違って見えるが「自己解放」と底流でつながっていた。

 後にこの言葉は世相の中で薄められ「自分探し」という風潮を生み、その先には70年代の「ディスカバージャパン」があった(この部分は著書にはなく私見)。

一方、ニューレフトのセクトでは「解放」の強制が不寛容で暴力的な空気を醸成した。そのパラドクスを解明しようとしたのが、真木悠介(見田宗介)の「人間解放の理論のために」。ここで真木は、ユートピア的未来構想論は原理的に2種類あるとし、一つは「最適化社会」論、もう一つは「コミューン」論とした。最適化社会は無数のエゴの「超多元的連立方程式」の最適解を求めようとする方式で、コミューン論は自己と他者の欲望の相克そのものを克服しようとする。真木はこのコミューン論を「溶融するコミューン」と「交響するコミューン」に分け一定の評価をしたが、連合赤軍事件がコミューン論の展開にとどめを刺すに至った。

 運動としてはともかく、思想としては「1968」はその後の構造主義(ポスト構造主義)、マルクス疎外論への読み直しへと引き継がれる。

 時代をややさかのぼるが、丸山眞男については次のように記している。

 ―今日なお丸山が読み継がれるのは、日本思想史についてひとつのパラダイムを作りあげたことにあって、そのパラダイムが問題なく受け入れられているゆえではない。むしろそれが問題的であり、つねに議論を呼び起こしていることがその存在意義であると言える。

 正確な評価であり、その通りであろう。欧米の政治思想も網羅し、戦後思想について改めて頭の中を整理するのに役立つ一冊である。

 NHKブックス、1600円(税別)。

 

戦後「社会科学」の思想: 丸山眞男から新保守主義まで (NHK BOOKS)

戦後「社会科学」の思想: 丸山眞男から新保守主義まで (NHK BOOKS)

  • 作者: 政稔, 森
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2020/03/25
  • メディア: 単行本

 


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