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自省的に描いた葛藤と喜び~映画「ペイン・アンド・グローリー」 [映画時評]

自省的に描いた葛藤と喜び~

映画「ペイン・アンド・グローリー」

 

 かつて世界的な名声を博した映画監督サルバドール(アントニオ・バンデラス)は脊髄の痛みに悩まされ、映画を撮る気力を失っていた。そんなある日、32年前の作品の上映会が催されることになった。この作品で演技をめぐってケンカ別れしたアルベルト(アシエル・エチェアンディア)も顔を見せるという。

 結局、上映会はキャンセルした二人だったが、サルバドールが、最近書いた独白録のようなものをアルベルトに見せると、作品化したいという。モノローグとして舞台化された公演の客席では、一人の男性が涙ぐんで見つめていた。サルバドールがかつて一緒に暮らしていたフェデリコ(レオナルド・スバラーリャ)だった…。

 生きる気力さえ失っていた日常にふと、過去へと向かう水路のようなものが通じる。こうしてサルバドールはバレンシアでの甘美な少年時代、マドリッドでの恋の破局の思い出に浸りながら、魂の再起へと向かう。

 老境、痛み、ヘロインからくる鬱的な精神状況から、少年時代の日々を回想する中でたどり着いたギリシャ神話のような光景。そこから生まれる生とエロスの輝き。監督ペドロ・アルモドバルが自省的に葛藤と喜びを映像化したという意味ではF・フェリーニの「8+2分の1」を連想させるが、その色彩と味わいは随分違う。何はともあれ、バンデラスの繊細な演技はさすが。

 2019年、スペイン。


ペイン.jpg

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