貧しい民衆の怒りを正面から描く~映画「レ・ミゼラブル」 [映画時評]
貧しい民衆の怒りを正面から描く~映画「レ・ミゼラブル」
もちろん、ヴィクトル・ユゴーの原作の映画化ではない。ユゴーとの関連は舞台が「あゝ無情」と同じであることと、エンドロールで触れられた箴言だけである。
パリ郊外モンフェルメイユに警官ステファン(ダミアン・ボナール)が配属になった。街は移民や失業者であふれていた。かつてのパリの面影はなく、貧窮する人々の怒りが充満していた。そんな犯罪多発地帯を巡回するうち、事件が起きた。
サーカス団からライオンの子が盗まれたのだ。ステファンらは必死の思いでライオンの所在を突き止めた。その過程で少年たちの思わぬ抵抗にあい、主犯格のイッサの顔面を至近からゴム銃で撃ってしまった。しかも一部始終は、ほかの少年のドローンで撮影されていた…。
ライオンの子の捜索過程で明らかになる、イスラム社会でのライオンの位置、街のボスたちの権力に対する抜きがたい反感。家庭に帰った警官たちの子どもへの接し方と、街の少年たちへの対応のあまりの温度差。その中で、怒りが沸点に達した少年たちの反乱。それは、ステファンら警官を追い詰めていく。逃げ場を失った彼らに浴びせられる、イッサの冷たい視線。どうしてこれほどまでに非情になったのか。そこにユゴーの箴言がかぶさる。
「友よ、よく覚えておけ 悪い草も悪い人間もない 育てる者が悪いだけだ」
監督・脚本はモンフェルメイユ出身のラジ・リ。驚くべきことに、この映画で描かれたことはすべて事実に基づくという。そして、この街の多様性こそ描きたかったのだという。
現代の貧困者階級の怒りを描いて、韓国映画「パラサイト」と並ぶ傑作。
2019年、フランス。
2020-06-18 15:29
nice!(0)
コメント(0)
コメント 0