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社会システムの脆弱性あらわに~三酔人風流奇譚 [社会時評]

社会システムの脆弱性あらわに~三酔人風流奇譚

 

「新型コロナウイルス」で見えたもの

 

松太郎 今年に入って新型コロナウイルス感染騒動が地球を覆っている。

竹次郎 中国・武漢を発生源とし、中国全土で万人の感染者を出したかと思えば、あっという間に日本、韓国、ヨーロッパへと飛び火した。

梅三郎 よく分からないのは、北朝鮮が「感染者ゼロ」としていること。表向きはともかく中国と人的交流があるのは間違いなく、それで感染者ゼロはありうるのか。感染者は強制隔離しているとか、処刑しているという極端な見方まで出ている。

松 まあ、感染者はいるが北朝鮮当局がひた隠しにしていると見るのが妥当だろう。ロシアも、感染者が2ケタ前半というのはちょっと信じられない。2つの国とも、表向きは強面だが政治システムとしては脆弱だ。だから隠さなければならないのでは。

竹 逆に、イタリアの感染者の多さと致死率の高さは異常だ。なぜだろう。

松 ベルルスコーニは毀誉褒貶の激しい政治家だが、彼が行った財政再建策で医療体制が犠牲になり、そのほころびが出たという説もある。

梅 米国は少し遅れてはいるが、これからどうなるか。爆発的に増えるとすれば米国ではないか。発生源の中国が収まりかけているだけに注目だ。

竹 確かに。米国はこれから日本と同じでスポーツシーズンに入る。米国の場合、テレビ放映権料というビッグビジネスが絡むから、日本のように無観客試合とは簡単にいかないだろう。大統領選候補者選びの集会も簡単には中止できない。

梅 地球上で人口の多い地域といえばアフリカ、中東。この地域でパンデミックが起きると怖い。

松 そんな中で、日本の対応は。

竹 さんざん言われているが、やはり後手後手に回っている感はぬぐえない。もっとスピード感ある対応はできなかったか。

梅 遅いとともに、極端から極端へぶれる印象がある。小中高の全国一律休業の「要請」もそうだ。

竹 もっとも首相サイドからすれば、あくまで「要請」なので従わなくてもいいという抜け道はある。

梅 戦時中の天皇の発言のようだ。無答責の天皇が感想めいたことを言えば、それが絶対的な命令のように受け取られる。後で問題になれば、周辺が「命令」であったことを否定する。そうして政治責任から免れる…。

松 やはり気になるのは、中国全土からの入国者を禁止したことだ。なぜこのタイミングで? というのはある。中国ではウイルス抑え込みが見えてきている。

竹 習近平国家主席の来日が延期されたことが、どう見ても直接の動機だろう。来日延期前に入国禁止措置は取りにくかったのでは。菅義偉官房長官は否定しているが。

 

政治システムと官僚

 

松 今回のウイルス騒動で顕著だったのは、官僚組織の脆弱性だ。それがそのまま日本社会の脆弱性につながっている。

竹 どういうことか。もう少し詳しく。

松 まず、厚労省が当事者能力を失っていた。「ダイヤモンドプリンセス」の隔離についても、初期対応を誤ったのは厚労省官僚の判断ミスのためだ。この件は神戸大医学部の岩田健太郎教授が鋭い指摘をしたが、あっという間に消された。おそらく指摘が的を射ていたために、どこからか圧力がかかったのだろう。

梅 ウイルス対策として水際作戦をとるなら、その「水際」はどこにあるかは、すべての人に見えていなければならないが、終始見えなかった。船内のどこかか、岸壁のどこかか。そのラインの内側と外側で当事者のウイルス対応は鮮明に分かれているはずだったが、見えてこなかった。岩田教授もそこを突いた。

竹 そもそも、専門家会議のメンバーがどんな構成なのか見えない。

松 メンバーは国立感染研の所長を座長として12人。これはネットで公開されている。感染症の専門家のほか弁護士が1人入っている。

梅 岩田教授は感染症の防護システムについての専門家のようで、経歴を見る限りだが、そちらの知見もありそうだ。こうした人は専門家会議にいるのか。

松 そこまでは分からない。

竹 専門家会議と銘打っているが、むしろ感染症というフィールド外の人材を入れるべきでは。メディアとか社会工学とかの専門家を入れればもっと違った提言ができるはずだ。

松 うーむ。それはどうかな。難しいところだ。科学とメディアをシステム工学的に結び付け最高水準のプロパガンダの仕組みを作ったのがナチスドイツで、遺産は戦後の米国に引き継がれた【注】。そこは賛否両論あるだろう。

竹 これまでの日本では、いわゆる専門家の知見を社会工学的に翻訳してきたのが官僚組織だ。その官僚組織が機能しなくなってきた。そのことがダイヤモンドプリンセスの失敗、PCR検査体制の立ち遅れという、如実な現象となって現れた。しかし、最後は政治が決断し責任を取るしかない。

 

脆弱性の源流は

 

梅 官僚組織の機能不全については同感だ。なぜこうなったのか。

松 官僚主導で戦後日本の高度経済成長が成し遂げられたが、成長も減速し社会構造が変わる中で政治主導が叫ばれた。そこで官邸による霞が関の人事権掌握がなされた。ここまでは流れとしてはよかったかもしれないが、それならそれで主導権を握る政治の側に高邁な理想、高い倫理性がなければならない。いわば社会の青写真だ。それがないために、いたずらに霞が関官僚を堕落、腐敗させるだけになってしまった。官邸さえ見ていれば上昇できるという…。

竹 国家公務員法の「解釈」変更による検事の定年延長も、この線上でとらえられる。なんとも情けないことだ。

松 今回のコロナ対策では、政治の側の脆弱性も見えた。例えば加藤勝信厚労相、萩生田光一文科相、新たにコロナ対策担当に任命された西村康稔経済再生担当相ら、いずれも安倍晋三首相の側近だ。多少政権に遠くても能力を見込んで登用した、という人事が見えない。こんなところにも政権の懐の浅さが見える。検事のごり押し定年延長と合わせて読めば、政治を脆弱にした政権の特質が見える。

梅 背景にあるのは小選挙区制度導入という国家的失敗だ。現職と与党が圧倒的に有利なこの制度下で、無知無能な安倍政権が長期化してしまった。少なくとも安倍政権は早く辞めさせないと、官僚組織だけでなく日本の根幹をなす社会システムまで破壊される。今回の新型ウイルス騒動は、感染者対策だけでなく日本の屋台骨を蝕むシロアリの脅威まで白日にさらした。

松 そうしたタイミングで「非常大権」による私権制限が可能になった新型インフルエンザ等対策特別措置法改正が3月13日にも成立する。ナチスドイツのようなワイマール体制の「アリの一穴」とならなければいいが。

 

【注】本ブログ「現代を生き延びるファシズム~濫読日記 『ファシスト的公共性 総力戦体制のメディア学』(佐藤卓己著)」参照。

 


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コメント 4

BUN

毎年、インフルエンザで100万人くらい感染、死者も数千人から1万人。今回のコロナがなぜこんなに深刻な騒動なのか分からない。ネタのないテレビは張り切っても仕方ないが、新聞は事実を冷静にお願いしたい。中国新聞にも以前疑問を呈し、問いかけたが応答なし。感染者の8割は軽症。広島県では感染者1人。死者0人。昨日、ゆめタウンに行ったが、人影まばら。今日伴西公園でテニスした。公園には児童の声が溢れてた。
by BUN (2020-03-11 23:28) 

asa

インフルエンザとどこが違うのか、という声はあると思います。
最大の違いは、新型肺炎は人類が対抗策を持たないウイルスによる、という点だと思います。その意味で、どの程度の被害を人間に与えるかは、分かっていません。感染者数も致死率も、データがないので後世の評価を待つしかないでしょう。
それよりも、関心事は「正体不明の敵」に襲われた時、我々の社会はどんな反応をするか、どんなパニックを起こすか、にあります。今回の文章も、そこに力点があります。
以上の点で、BUNさんとは多少見解が異なるかもわかりません…。
by asa (2020-03-13 10:23) 

BUN

未だ感染者1人、死者0。広島県だ。インフルエンザはもとより危険は交通事故より少ない。これで、小中高全て休校。働けないで困る人も。店はガラガラ。こんなんで、いいのか。総罹患者より、現在罹患した人が増えているのか減っているのか。飲食店ばかりではないが、気の毒でならない。
by BUN (2020-03-16 23:58) 

asa

日本の感染者数については、外国メディアも懐疑的なようです。公表された数字の10倍はいるだろう、という見方が多いようです。これはPCR検査の遅れが響いているようです。 J・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」は、スペイン軍がなぜあれほど簡単にインカ帝国を滅ぼしたかを追究した本ですが、銃・鉄とともに病原菌(インフルエンザ菌)を南米大陸に持ち込んだことが大きかったとしています。インフルエンザといえども、抗体がなければ侮れないということでしょうね。
by asa (2020-03-22 17:15) 

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