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迫真性と臨場感~映画「1917 命をかけた伝令」 [映画時評]

迫真性と臨場感~映画「1917 命をかけた伝令」

 

 エンドロールで、この映画が実話に基づくものと知った。監督のサム・メンデスが、第一次大戦の西部戦線で兵役についていた祖父から聞いたらしい。

 レマルクの「西部戦線異状なし」でも描かれたように、第一次大戦の特徴の第一は塹壕戦だった(その歴史的背景はこれまでに触れているので、ここでは書かない)。死臭漂う塹壕内部がリアルに再現されていた。そのリアルさが迫真性と緊迫感を与えている。そのうえで長回しカットが臨場感をもたらした。

 その結果、たどり着いたものは。

 冒頭書いたように、この映画は個人の体験を映像化することから始まっている。描かれた日も1917年4月6日と具体的だ。しかし、個々のシーンは50年後、ベトナム戦争の一シーンと断っても通用するのではないか。即ち、戦争とは何か、という問いに対する答えという意味では、この映像は普遍性すら持ち得ている。伝令役の兵士が炎上する廃墟の中で十字架像を目撃するシーンなどは、F・コッポラの「地獄の黙示録」を連想させる(少し褒めすぎか)。

 ストーリーは単純だ。おそらく、戦争の中での一つのエピソードにすぎない。

 1917年、フランス北部に侵攻したドイツ軍が突如撤退した。これを見た英軍は戦機とみて進軍態勢をとった。しかし、実はドイツ軍の巧妙なおとり作戦だった(敵を引き込んで側面から撃つ。この作戦でドイツ軍がロシア軍に対して大きな戦果を挙げたのが1914年のタンネンベルグの戦い=詳しくは片山杜秀「未完のファシズム」参照)。航空機による偵察でドイツ軍の作戦を察知した英軍エリンモア将軍(コリン・ファース)は、D連隊1600人を救出するため伝令2人を選抜、攻撃中止を伝えるよう命じた。激戦のため、すでに通信手段は壊滅状態だったからだ。

 こうしてブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)、スコフィールド(ジョージ・マッケイ)の二人の上等兵は無人の前線へ飛び出す。二人は伝令の任務を果たすことができるのか。

 若干褒めすぎた感もあるので、ここで少し修正するが「実話」という部分はほとんど「ヒント」にすぎないであろう。後は監督ら映像の作り手による創作部分が大きいと思う。それが結果的に、迫真性と臨場感という意味で、戦争映像としての普遍性にまでたどりつかせた。言い方を変えれば、実話に縛られなかったことが作品の水準を上げた。

 ややこしくなったが、最終的な評価としては悪くない。若干のヒロイズムと宗教色を除けば。2019年、米英合作。

 


1917.jpg

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