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「焼跡・闇市」が物語の縁をとる~映画「グッドバイ」 [映画時評]

「焼跡・闇市」が物語の縁をとる~映画「グッドバイ」

 

 原作は太宰治の未完の、そして最後の作品。小説のプロットを生かしてケラリーノ・サンドロヴィッチ(緒川たまきの夫で日本人)が舞台化、さらに監督・成島出で映画化された。

 太宰は彼の最大の傑作「人間失格」を書きあげて「グッドバイ」に取り組み、完成前に玉川上水で情死した。

 さて、映画の「グッドバイ」。基本的なプロットは太宰の原作と同じで他愛もない、といっていい。そんな中、底流にあるのは終戦直後の庶民のアナーキーでニヒルな心情であろう。焼跡に立って明日は明日、どうなろうと運しだい、というある種青天井の心象風景である。この辺はしっかり押さえてあり、濃い縁取りを与えている。

 ある文芸雑誌の編集長・田島周二(大泉洋、役名は太宰の本名のひねりだろう)は裏稼業の闇屋でもうけ、女性10人を囲う生活を送っていた。しかし、増えすぎた愛人との生活を反省、手を切ってまともな生活はできないかと考える。そこで不良文士・漆山連行(松重豊)に相談したところ、ある「名案」を言い渡された。

 どこかからすごい美女を探し出し「夫婦」と称して愛人のもとを回る。そうすればみんな手を引く、というのだ。そんな美女はいるのかと探したところ、いた。担ぎ屋の永井キヌ子(小池栄子)である。普段は泥だらけだが、ひとたびめかしこめば誰もが振り返る美女だった。しかし、担ぎ屋だけに大食いと声の大きさが難点だった。

 こうして偽夫婦の愛人めぐりが始まった。後はドタバタ喜劇であるが、ある日、田島に不幸が訪れる。路上で強盗に襲われたのだ。

 「さよならだけが人生さ」とは、太宰の師匠の井伏鱒二の言葉だったと記憶するが、まるで太宰にぴったりくる。コミカルで哀しい語感を忍ばせるが、映画自体は胸をなでおろすハッピーエンドである。それにしても小池栄子ははまり役。バイタリティーと美貌を両立させるこの役、彼女以外にあり得ないだろう。田島の妻に木村多江、愛人に水川あさみ、緒川たまき、橋本愛ら、そうそうたる顔ぶれ。

 2019年、日本。

 


グッドバイ.jpg


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