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上級国民と下級国民の闘い~映画「パラサイト 半地下の家族」 [映画時評]

上級国民と下級国民の闘い

映画「パラサイト 半地下の家族」

 

 「上級国民 下級国民」という言葉がある。かつて「階級」という言葉がマルクスやエンゲルスによって定義されたが、生産手段を持つものと持たざる者を指していた。現代の「上級国民」もしくは「下級国民」は新自由主義がもたらしたとされる。

 その上級国民と下級国民の間にそびえる越えがたい壁を描いたのが「パラサイト」である。

 「犯罪一家」という点では是枝裕和監督の「万引き家族」に似ていなくもない。しかし、それはあくまで入り口部分だけで出口は全く違っている。

 元タクシー運転手キム・ギテク(ソン・ガンホ)の一家は、半地下の住居に住んでいた。朴正熙大統領の時代、朝鮮戦争に備えて防空壕代わりに造られたといわれ、現代では日当たりの悪さや非衛生的、雨が降れば汚水が流入するなどの理由で貧しい人たちの専用になっていた。

 ある日、浪人中の長男ギウ(チェ・ウシク)に親友から家庭教師の話が飛び込んできた。IT企業の社長パク・ドンイク(イ・ソンギュン)の娘ダヘを教えてくれないかという。大学生を偽ってパク家に潜り込んだギウは、妹ギジョン(パク・ソダム)を、米国留学経験を持つ美大生と紹介、パク家の長男ダソンの美術教師として引き入れた。さらにギテクをお抱え運転手に、母親のチュンスク(チャ・ヘジン)を家政婦に仕立て上げた…。

 パク家の妻ヨンギョ(チョ・ヨジョン)は若く美しかったが人が良く、キム一家の詐術にまんまとはまっていった。…と、上級国民に寄生(パラサイト)するスパイ映画並みの鮮やかな手口が展開され、ここまでで一つの物語だが、実はこれはほんの始まりに過ぎなかった。

 パク家の豪邸は元々ある建築家の持ち物で、それを家政婦ごと購入したのだった。その家政婦ムングアン(イ・ジョンウン)は既に追い出したのだが、パク家がキャンプのため家を空けたある夜「忘れ物がある」と訪ねてきた。話を聞くと、この豪邸にはパク家の知らない地下室があり、借金取りに追われた亭主が隠れ住んでいるという。

 家政婦と亭主を追い出そうとした時、パク一家が豪雨の中、キャンプを中止して帰ってきた。窮地のキム一家は、ムングァンと亭主を再び地下室に閉じ込めた。

 帰宅したパク一家に気づかれぬよう半地下の家に帰ってきたキム一家は、豪雨で汚水まみれになった我が家に茫然とする。そして、地下室に残した2人を「始末」しなければならないと、再び豪邸に舞い戻る。

 ここからは、キム一家と元家政婦ムングァン夫婦との抗争である。結末を詳しく書けば興ざめなのでここまでにするが、まず下級国民同士の闘いがあり、下級国民対上級国民の闘いに移る。しかし、ここでの階級差はかつてマルクスが構想した生産手段の所有、非所有を根拠とするものではないので(おそらく富を基準にした格差であろう)、明確な組織論が存在しない。そのため、壁は非妥協的・組織的な闘いによってではなく「自己責任」という新自由主義的イデオロギーによって突破される。つまり、上級国民になることが階級格差を乗り越える最上の方法だ、という結論に到達する。

 豪邸に潜り込んだキム一家が「におい」によって越えがたい壁を意識させられるところなど、実にうまい。そして、この「におい」による壁を指摘したIT社長はギテクに刺殺される。話が前後したが、ここでは、暴力によって「格差」という壁は突破される。

 2019年、韓国。三段ロケットのようなパワフルなつくり、さすが韓国映画だ。

 


パラサイト.jpg

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