SSブログ

蒼井優の「いいおんな」ぶりに支えられ~映画「ロマンスドール」 [映画時評]

蒼井優の「いいおんな」ぶりに支えられ

~映画「ロマンスドール」

 

 原作者タナダユキが自ら監督して映画化した。原作は読んでいないので、映画についてのみ語る。

 タイトルは「ラブドール」から来ている。昔風に言えばダッチワイフ。美大を出てフリーターをしていた哲雄(高橋一生)は、ひょんなことからラブドールの製作業者に雇われる。シリコンのドール製作に取り組むが「巨乳より美乳を作れ」という経営者(ピエール瀧)の一言で、生身の女性のバストを型どりすることに。「医療用」と偽って募集をかけ、応じた美術モデルの園子(蒼井優)と恋に落ちた哲雄は結婚し、所帯を持つ。

 年もすると、仕事に追われて哲雄は園子をないがしろにする。実は哲雄は、結婚後もラブドールのことは話してなかった。夫の秘密に呼応するように、園子もまた秘密の行動をとる。その秘密とは、自らを蝕むがんのことだった。そんな中で哲雄は仕事のことを打ち明け、園子は「知っていたわ」と笑った。そして、がんのことも明かした。

 クオリティーライフを優先するよう医者に告げられ、二人の生活は再び愛に満ちたものとなった。しかし、結局園子は死を迎える。死の直前、園子が哀願したのは、自らの体を再生してほしいということだった。哲雄は一心に取り組み、園子とウリ二つの「ドール」を作り上げた…。

 ざっとこんな話だが、多少の違和感がないでもなかった。

 一つは、愛妻の体を不特定多数の欲望処理のための「ラブドール」として再生することに葛藤なり心理的なハードルはなかったのだろうか。二つ目、亡くなった妻とそっくりな「ドール」を作れば、それを見るたびに蘇る「つらさ」に耐えきれるのだろうか(この心理は少し見られたが、それほど簡単に越えられるハードルとも思えない)。三つ目、どれだけ本物そっくりに作ろうと偽物は偽物である、という違和感のようなものが描かれていないのが不思議だった。

 昨年末のNHK紅白歌合戦で、AIを使った美空ひばり人形が登場した。似ているかどうかより、薄気味悪さと、ある種の無意味さを観るものに感じさせた。この映画の末尾でも、そんな心理状態が生まれて不思議ではなかった。そうした「ひねり」がいくつかきいていたら、もっと深さを持つ作品に仕上がったように思う。「ふがいない僕は空を見た」で、コスプレに意味を持たせることに成功したタナダユキだけに、期待したのだが…。

 いくつかの違和感と不満点を残しながらも、この映画がそれなりにいい味を出していたのは、ひとえに蒼井優の「いいおんな」ぶりが際立っていて、現代のファンタジーになりえていたからだと思う。

 2020年、日本。

 

蒼井優.jpg


nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。