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実在の政治家を痛烈に皮肉る~映画「LORO 欲望のイタリア」 [映画時評]

実在の政治家を痛烈に皮肉る

~映画「LORO 欲望のイタリア」

 

 ベルルスコーニ。イタリアで世界的な実業家として台頭し、冷戦後の1990年代に政界に転身した。財力を背景に中道右派を統合、頂点に上り詰め、9年間首相(閣僚評議会議長)についた。しかし失言、性的スキャンダル、職権乱用などで批判が絶えず、失脚と復活を繰り返した。

 そのベルルスコーニをモデルにした「LORO 欲望のイタリア」。冒頭、2006年のサルディニアのシーンから、性的スキャンダルと汚職にまみれた政治家像が描き出される(ここではまだベルルスコーニは登場しない)。続いてローマの豪邸で連夜、展開される乱交パーティー。ドラッグと酒浸りの生活。野心に満ちた実業家セルジョ・モッラが担ぐための標的にしたのは、首相の座を降りたばかりのベルルスコーニだった。

 こうした日々の中でベルルスコーニは政界再編へ次々と手を打ち、女性への欲望も満たしていく。そしてついに復活を果たすが、政界裏工作が暴露され再び窮地に。そのため欧州議会議員になる野心を持つセルジョも道が開けない。一方で若い女子大生にひかれたベルルスコーニは「私の祖父と同じ口臭がする」といわれ、落ち込む。

 そんな中、ラクイラで大地震が起きる(2009年)。被災者にニュータウンを作ることを約束したベルルスコーニ。約束は果たされる。ポピュリストの面目躍如だ。サミットでの失言から釈明のためニューヨークの国連本部に向かうはずだったが、ミラノで18歳の少女のパーティーに出ていたことが分かり、未成年買春の疑惑が浮上する。

 震災現場ではキリスト像がクレーンでつり上げられ、フェリーニの「甘い生活」を思わせる展開。そういえば、酒とバラの日々を送っていた人々の頭上にがれきが降り注ぐさまは「ソドムとゴモラ」のようでもある。全編通じてストーリーテリングよりめくるめく映像をつなぎ合わせた印象で、この辺は「気狂いピエロ」のゴダールを想起させる(そういえば先日、アンナ・カリーナが亡くなっていた)。

 2018年、イタリア製作。監督は「追憶のローマ」のパオロ・ソレンティーノ。政治的権力者であった人物をここまで皮肉る映画が作れるとは。さすがイタリア。LOROは「彼ら」。彼らとはベルルスコーニとその仲間のことか、それとも大衆のことか。一筋縄ではいかない作品で、評価はむつかしい。

 

欲望のイタリア.jpg


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