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アメリカの「原罪」を直視した作品~映画「荒野の誓い」 [映画時評]

アメリカの「原罪」を直視した作品~映画「荒野の誓い」

 

 「クレイジー・ハート」(2009年)で落ち目のカントリーウェスタン歌手の再生を、「ファーナス 決別の朝」(2013年)で、トランプ現象の背景にもなったプアホワイトの閉塞状況を描いたスコット・クーパー監督が西部劇を作った。

 クーパーの作品にひかれるのは、いずれも魂の物語を紡ぎだすからだが、はたしてこの「荒野の誓い」も期待を裏切らなかった。

 ネイティブアメリカン(先住民)との戦いも終わった1892年、米国西部ニューメキシコ州の刑務所に勤務する騎兵隊大尉ジョー(クリスチャン・ベール、「バイス」での演技が記憶に新しい。「ファーナス」でもクーパー監督とタッグ)は、ある任務を言い渡される。ガンの末期症状にあったシャイアン族の族長イエロー・ホーク(ウエス・ステューディ)を故郷モンタナまで護衛しろというのだ。先住民との戦いで多くの友を失ってきたジョーは、いったんは断る。しかし、退役とその後の年金生活を待っていた彼は、拒めば軍事法廷という上官に抗しきれず命令を受け入れる。

 こうして「聖なる地・熊の峡谷」と呼ばれる地を目指すシャイアン族の家族と、彼らを守る騎兵隊の1000㍄の旅が始まった。そのころ、コマンチ族と呼ばれる先住民族が荒野に住む一家を襲撃、馬を略奪する。戦いの末、ロザリー(ロザムンド・パイク)を残して夫と3人の子は殺される。心に傷を負ったロザリーは偶然現れたジョーの一行に合流。旅をする中で、コマンチと同じ先住民族イエロー・ホークらを警戒していたロザリーも徐々に心を開く。

 過酷な長い旅路の末、一行は「熊の峡谷」にたどり着いた。ここでイエロー・ホークは荘厳な死を遂げる。

 …で、物語は終わりではない。目的地に着いた一行の前に「ここは俺たちの土地だ」と主張する白人グループが現れた。この時のために、とジョーは任務の証である大統領令をかざす。しかし、白人グループは「そんなものはただの紙切れ」と取り合わなかった。すると、決然と大統領令を捨て去ったジョーは「ここは彼らの土地だ」と戦いを挑む…。

 先住民との残虐な戦いに疲れ彼らへの憎悪にとらわれていたジョーが、旅の中での対話と協力関係を通じてだれの土地をだれが奪ったのかを明確に認識した瞬間だった。

 原題は「Hostiles」。敵意、敵対行為を意味する。このタイトルこそ物語の核心を伝えており邦題はいかにも安っぽい。そして、白人=正義、インディアン=悪という勧善懲悪の構図の中でつくられたかつての西部劇とは違う、アメリカの建国にまつわる原罪的事実にきちんと目を向けたクーパーに拍手したい。

 観終わって、冒頭にあるD.H.ロレンスの言葉が突き刺さる。

 アメリカの魂は孤独で禁欲的で人殺しだ。いまだに和らがぬ

 ラスト、モンタナからシカゴへと向かう列車。そこでロザリーに対してジョーがとった行動は、泣かせますね。

 2017年、アメリカ(日本公開は2019年)。

 

荒野の誓い.jpg

 


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