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「まなざしの地獄」にあえぐ一人の女性~映画「よこがお」 [映画時評]

「まなざしの地獄」にあえぐ一人の女性~映画「よこがお」

 

 「淵に立つ」で、刑期を終えたある男の出現によって破滅へと向かう家族を描いた深田晃司監督が、ある事件を契機にいやおうなく加害の立場に立たされ苦悩する女性を描いた。二つの作品に共通するのは、私たちを取り巻く日常の板子一枚下は地獄であり不条理である、ということである。

 白川市子(筒井真理子)は、訪問看護士をしていた。日本画家だった女性・大石塔子(大方斐沙子)も彼女の受け持ちだった。塔子の娘洋子(川隅奈保子)、その娘基子(市川実日子)とサキ(小川未祐)が一つの家族として暮らしていた。基子やサキは市子を慕い、看護士と家族の関係以上の付き合いをしていた。ある日、喫茶店で待ち合わせた3人のところへ市子の甥・鈴木辰夫(須藤蓮)が顔を見せる。辰夫は市子に頼まれた介護福祉士の参考書を置いて、その場を去った。

 事件はその後に起きた。サキが行方不明になったのだ。数日後に発見され、辰夫が略取誘拐容疑で逮捕された。そのことをテレビのニュースで知った市子は、容疑者は甥であることを洋子に伝えようとしたが、基子の反対で断念した。その日以来、市子は辰夫との関係を胸に秘めたまま大石家へ出入りするが、週刊誌やテレビが秘密に気づくのは遅くはなかった。さらに、基子によって悪意に満ちた「証言」がなされ、市子は追いつめられていった。マスコミの取材攻勢は市子の自宅や訪問看護ステーションにまで及び、仕事もやめざるを得なくなってしまった。

 市子には結婚を約束した医師がいたが、その話も途中で壊れてしまう…。

 甥が起こした事件に市子が責任を負う必要は全くないのだが、世間の見る目は市子を追いつめていく。見田宗介が永山則夫事件のキーワードとした「まなざしの地獄」である。そんな中、市子は基子に対してささやかな復讐を試みようとする。

 物語は善意と悪意、慰安と復讐が経糸、横糸となって展開され、タイトル「よこがお」の意味が明らかになっていく。市子はもとより基子も、そして世間も、見えているのは片面だけである。つまり、横顔しか見せていないし、見えていないのだ。

 最後の部分、「ささやかな復讐」のかたちが、小説と映画で変えてある。善意にとれば文字と映像それぞれの可能性を追求した、と読めるし、悪意にとれば「商売上手」とも読める。さて、どちらか。

 映画では原作にないヘアーサロンの男・米田和道(池松荘亮)が登場する。ストーリーの幹の部分には関わらず、舞台回し的な役回り。しかし、この男の存在で単線的なストーリーが複線的になっている。

 2019年、日仏合作。  

 

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