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普通の人たちが織りなすドラマ~映画「真実」 [映画時評]

普通の人たちが織りなすドラマ~映画「真実」

 

 「我が人生を振り返る」式のインタビュー番組、もしくはインタビュー記事というものを、基本的に信じないことにしている。自分に都合よく語られているからだ。改ざん、もしくは嘘が混じっているとまでは言わないが、人間だれしも、自分に都合の悪いことは言わないものだ。そして、自分に都合のいい部分は必要以上に多く語る。だから、あまたある「自伝」と称するものも、一歩引いて眺めることにしている。

 是枝裕和の新作「真実」を観た。

 フランスの女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーブ)が自伝を出した。タイトルは「真実」。彼女には脚本家の娘リュミエール(ジュリエット・ビノシュ)と夫ハンク(イーサン・ホーク)、7歳の娘シャルロット(クレモンティーユ・グルニエ)がおり、たまたまニューヨークからパリへと尋ねてきた。女優と家庭人を天秤にかけ女優を選んだというファビエンヌを、リュミエールは快くは思っていなかった。当然ながら、出版された自伝にも不満を持っていた。最大の問題は、ファビエンヌとリュミエールが公私にわたって交流を続けたサラのことが、一言も触れられていなかったことだった。「真実」と題した自伝が事実とかけ離れていることを伝えると、ファビエンヌは一言「事実なんて退屈だわ」と答えた。

 波紋は、ファビエンヌの撮影現場にも及んだ。秘書リュック(アラン・リボル)が、自分のことに触れていないことに失望し仕事をやめると言い出したのだ。やむなくリュミエールが代役に立ち、撮影現場も立ち会った。

 ファビエンヌが出演していた映画には、若くして亡くなったサラの再来と呼ばれたマノン(マノン・クラベル)が出ていた。マノンは、「サラの再来」と呼ばれることにプレッシャーを覚えると漏らす。そうした彼女を自宅に招き励ますファビエンヌ。そうした心の交流をそばで見ながら、いつしかわだかまりが融け始めるリュミエール…。

 ストーリーは、一つのファミリーとそれを取り巻くわずかな周辺の出来事に終始する。出てくるのはあくまで普通の人たちで、ほのかな心のやり取りがあり、最後は大団円に終わる。是枝作品らしい、安定的でこまやかな演出ぶり。彼の作品群でいえば「海街diary」あたりを観るようだ。あるいは、晩年の小津作品あたりか。世界に羽ばたく是枝としては、破たんのない堅実な路線を選んだ、という印象が強い。「佳作」という形容が似合う作品である。

 この映画評を書くため関連記事を読んでいたら、ジュリエット・ビノシュがインタビューで(是枝監督は)「アントン・チェーホフに似ている」と語った下りに行きあたった。人間を善人、悪人に腑分けするのではなく、そのまま描くという点で、ということらしい。同感する。

 2019年、日本・フランス合作。

 

真実.jpg


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