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日本の諜報機関の現在と未来~濫読日記 [濫読日記]

日本の諜報機関の現在と未来~濫読日記

 

「内閣情報調査室 公安警察、公安調査庁との三つ巴の闘い」(今井良著)

 

 戦後日本が他国から「スパイ天国」と言われて久しい。戦前・戦中への反省から、本格的な諜報機関を作らなかったためだ。そんな折り、官邸一強と呼ばれる政治状況の中、対北朝鮮外交で安倍晋三政権は「強硬」から「対話」へと路線転換した。米国、韓国の太陽政策をにらみ、バスに乗り遅れたくないからだった。しかし、道筋をつけるのはだれか。小泉純一郎首相の電撃訪問の影には田中均という外務官僚がいた。米国、韓国にはCIA、KCIAという諜報機関がある。そこで首相が指名したのは外務省ルートではなく検察出身の北村滋・内閣情報官だった。

 首相の信頼が厚いこの人物は内閣情報調査室、つまり官邸が抱える諜報組織の元締めである。何かにつけ見え隠れするこの内閣情報調査室(内調)。いったい何をするところか。秘密調査機関であるから、もちろん全容は容易に公にならない。かつて首相にべったりといわれたジャーナリストが女性記者への強姦容疑で逮捕寸前まで行ったとき、最終的に止めたのは北村情報官だったといわれる。天下の公道を、大手を振って歩ける仕事ばかりでもないのだ。

 その内調について詳細に追ったのが今井良著「内閣情報調査室」。知られているように、日本で諜報機関と呼ばれるものは一つではない。他に検察庁筋の公安警察、法務省筋の公安調査庁がある。三つの機関は境界線が不明瞭で活動が重なるため、それぞれ触れざるを得ない。単独で書き切ることが困難なのだ。なお、公安警察については青木理の好著「公安警察」がある。

 本著は、三機関の総論、内調誕生の経緯、内調の活動ぶり、公安警察、公安調査庁の活動ぶり、内調のこれから、というかたちで展開する。

 三機関入り乱れての諜報活動なので、時に内調の人間が公安警察、公安調査庁によって追いつめられるという局面もある。第1章は、そんな象徴的なエピソードから始まる。そして、内調の組織図、活動ぶりへとポイントが移る。驚くべきは、日々の活動についての描写が細かいことだ。公刊情報と呼ばれる、ネットも含めた一般社会に流通する情報を徹底的に、それこそ「ごっそり」かき集め、分類し分析する。そこから逆に公開情報をつくる。すなわち世論操作、マスコミ工作を行う。記憶に新しいのは、前川喜平・文科省事務次官の「出会い系バー通い」報道であろう。著書では「総理の耳目」と表現しているが、時には総理の影の「口」でもある。

 興味深いのは、内調の情報収集を支える別動隊の存在だ。北朝鮮をチェックするラヂオプレスあたりは想像がつくが、NHKや共同通信、時事通信、内外情勢調査会あたりまでリストに入ってくると、流通するニュースも、一歩引いて構えてみなければならないのか、とさえ思う。

 オウム信者の犯行とみられていた警察庁長官狙撃事件。既に時効になったが、北朝鮮工作員の犯行説が消えないという。そういえば、時効に追い込まれた時の公安部長の会見は、なおオウム犯行説を主張するという異様なものだった。そのとき、公安警察の背後に何があったのか。

 公安調査庁は、破防法適用を判断するための機関である。しかし戦後、伝家の宝刀は抜かれたことがない。暴力的活動を理由に一切の団体活動を否定するだけに、憲法が保障する「集会結社の自由」と激しくぶつかる。オウム真理教に対してさえ適用を見送った。今や時代に合わせたアップデートが必要では、と著者は問う。

 では、これからの日本の諜報機関はどうなるか。外務省による一本化構想が浮かんでは消えるという。一方で内調や国家安全保障局(NSS=National Security Secretariat)については、首相の思い入れが強いという見方もある。内調トップやNSSの谷内正太郎局長についても、人的属性つまり首相の好みが大きいとされる。政権が代わったとき、今の比重のまま行けるのかどうか、不透明なのだ。とはいえ境界線があいまいなまま入り乱れて活動する今の諜報機関、いずれ統合が迫られるようにも思う。

 著者は「おわりに」で「内閣情報調査室をテーマにするのには勇気が必要だった」と述べている。本音だろう。とりあえず、書きにくいテーマを書いた勇気に拍手を送りたい。

 幻冬舎新書、840円(税別)。


内閣情報調査室 公安警察、公安調査庁との三つ巴の闘い (幻冬舎新書)

内閣情報調査室 公安警察、公安調査庁との三つ巴の闘い (幻冬舎新書)

  • 作者: 今井 良
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/05/30
  • メディア: 新書

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