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「イラク開戦」に疑問を投げかけた少数者~映画「記者たち 衝撃と畏怖の真実」 [映画時評]

「イラク開戦」に疑問を投げかけた少数者~

映画「記者たち 衝撃と畏怖の真実」

 

 米国メディアといえば、ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙、あるいはAP通信などが知られる。ナイト・リッダーはその中で、あまり知られていない存在だ。自らは「紙」を持たず、地方紙31社に記事を配信する通信社的な機能を持つ。地方紙の側は、APなど大手の通信社と比較しながら記事掲載を判断する。あくまでも編集権は掲載紙の側にある。

 イラク開戦の契機となったのは、9.11後にもたらされた亡命イラク人による誤った大量破壊兵器(生物化学兵器)製造情報(カーブボール)だった。これが核兵器製造疑惑に発展し、ブッシュ大統領が開戦を決断した。チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官らも世論の醸成に加担したことは知られるところである。

 ホワイトハウスはこの時、NYタイムズにウラン濃縮用アルミ管がイラク国内で見つかったとリーク、同紙がこの情報を掲載したため、一気に核兵器製造疑惑が広がった。Wポストなど有力紙も追随した。しかし、ナイト・リッダーだけは、情報の信ぴょう性を疑った。「真実かどうか。裏がとれなければ書かない」という基本姿勢を貫いたのだ。

 ワシントン支局に駐在するジョナサン・ランデー(ウッディ・ハレルソン)とウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)の絶妙コンビで進められる取材は「大統領の陰謀」のボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインを思わせる。この時の編集主幹ベン・ブラッドリーに当たるのが編集のボス、ジョン・ウォルコットで、なんと監督のロブ・ライナー自身が演じている。

 米国内でけっしてA級ではないメディアが四方からの批判にさらされながらもジャーナリズムの基本を守り、真実の報道に徹したイラク開戦の内幕を、高ぶることなく追ったドキュメンタリー風ドラマ。日本のメディアにこのようなことができるか、と自問してみると米国メディアの志の高さが伝わってくる。記者たちの熱意にもかかわらず米国世論の主流とはならなかったイラク大量破壊兵器疑惑への「異議」を、こうして映画化したことの意味は大きい。来日会見で「民主主義が機能するためにジャーナリズムは必要」と語ったロブ・ライナー監督の言葉が重い。

 2017年、米国。


記者たち.jpg


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