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夫を支える妻のモヤモヤ感~映画「天才作家の妻 40年目の真実」 [映画時評]

夫を支える妻のモヤモヤ感~

映画「天才作家の妻 40年目の真実」

 

 偉大な作家の影に妻がいた。この話は、深田久弥の場合が記憶に残る。改造社編集部にいた深田は、ある女性の懸賞小説に目を奪われた。当選作にはならなかったが、やがてその女性との共同生活が始まる。深田の作風は一変し、純文学の新星と目される…。(田澤拓也著「百名山の人 深田久田伝」)

 米コネチカット州。現代文学の巨匠ジョゼフ・キャッスルマン(ジョナサン・プライス)に国際電話がかかる。受話器はノーベル文学賞受賞を伝えた。妻のジョーン(グレン・クローズ)と喜びに浸った。

 駆け出し作家の息子デビッド(マックス・アイアンズ)を連れ、スウェーデンの授賞式に向かう機内、一人の男が近づいてきた。ジョゼフの伝記執筆を狙うライターのナサニエル・ボーン(クリスチャン・スレーター)。彼はジョゼフの作品と経歴を調べ上げていた。妻子がいたジョゼフをジョーンが略奪するように結婚したこと。ジョゼフの初期の作品より、若き日のジョーンの作品が数段すぐれていたこと。結婚後のジョゼフの作品が劇的に変わったこと…。

 ジョーンこそ本当の筆者ではないかと疑っていた。背景には、女性の進出を喜ばない出版界の「常識」があった。スウェーデンのホテルのロビーでこの疑問をジョーンにぶつけたが、軽くあしらわれる。しかし、ジョーンの心中は穏やかではなかった。授賞式のあわただしさの中、それがジョゼフにも波及し心身を乱していく…。

 映画では、二人が小説を合作する様子がちらりとのぞく。プロットはジョゼフが書いたのかもしれない。しかし、交わされるセリフは何ともリアリティーがなかった。そこでジョゼフが手を入れていく。そうだったかもしれないし、そうでなかったかもしれない。あるいは、初めからジョーンが書いたのかもしれない。

 この場合、初めから夫婦の合作と公表していれば問題なかったかもしれない。しかし、そうはいかないところが、夫婦の妙というものだろう。偉大な作家を支える妻に人知れず積み重なるモヤモヤ感。

 原題はずばり「The Wife」。原作にはなかった「ノーベル賞」を映画で追加した。監督はスウェーデン生まれのビヨルン・ルンゲ。グレン・クローズが心理サスペンスで存在感を示した。2017年、スウェーデン、アメリカ、イギリス合作。


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