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ネットの海に揺らぐレガシー・メディア~濫読日記 [濫読日記]

ネットの海に揺らぐレガシー・メディア~濫読日記

 

「歪んだ波紋」(塩田武士著)

 

 年々、広がりと厚みを増すネット社会。ひたひたと押し寄せるその波に、のみ込まれそうになる新聞、テレビ、出版。それらは批判と皮肉を込めて「レガシー・メディア」と呼ばれる。果たして、ネットという海はこれからの社会の主流になるのか。新聞、テレビは没落するしかないのか。メディアを取り巻く今日的状況を、五つの短編でオムニバス風に取り上げた。

 著者は、ある地方紙記者から作家に転身した。それだけに、メディアの今日的な位置をとらえる目は確かだ。言い換えれば、ピントを外した部分がない。五つの短編にはそれぞれ別個の人物が登場する。それでいて、全体をつなぐ太い鎖のようなテーマがあり、構成上のまとまりを見せる。この辺り、腕の冴えが感じられる。

 では、全体をつなぐテーマとは。「虚報」もしくは「誤報」と呼ばれるものが、いかにして生み出されたか、あるいは、それらがどんな波紋を呼び、被害者を作り出してきたか。これがテーマである。

 ある地方紙で調査報道のプロジェクトチームが組まれる。そこからなぜか、虚報が生まれる▼定年を迎えたある全国紙記者。静かな生活がある日、突然乱される。かつてともに仕事をした記者が自殺をしたという。背後には、ある誤報の存在があった▼事情があって全国紙をやめた女性記者。記者としての夫の行動に疑問を持つが、子供との生活も捨てきれない。ジャーナリズムを貫くことの重さ▼ある地方紙総局デスクに舞いこんだ、韓国人「闇社会の帝王」の動静情報―。そして、提示された謎の全てが、あるウェブサイト編集長にフォーカスを絞った最終章「歪んだ波紋」で回収される。ここから先は読んでのお楽しみだ。

 「語り」のうまさに舌を巻く。ハードボイルドなエンターテインメントに向かわない、著者の文体の確かさ。たとえば「目の前の男がまとう荒んだ雰囲気」といった形容表現が醸す何か。この辺り、同じ地方紙出身で作家に転じた横山秀夫とは違っている。

 「ネット社会とレガシー・メディア」といったテーマ自体は、さんざんノンフィクション、評論、コラムで論じられてきた。その辺に目新しさはないのかもしれないが、そこは著者の文体の品格とうまさに救われていると感じる。

 講談社、1550円(税別)。


歪んだ波紋

歪んだ波紋

  • 作者: 塩田 武士
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/08/09
  • メディア: 単行本

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