アートを気取った駄作~映画「Vision」 [映画時評]
アートを気取った駄作~映画「Vision」
河瀬直美監督の作品は、興味はあったが見たことがなかった。10作目という「Vision」の公開で、一度は見てみるか、という気分で鑑賞した。印象は最悪であった。いわゆる芸術的な作品の部類に入るのだろうが、画風にそうした意識が先走りすぎている。難解さの裏側に、何か不快なものを感じさせる。
仏人のエッセイスト、ジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)は幻の植物ビジョンを求めて吉野の森を訪れる。そこで、一頭の猟犬と暮らす智(永瀬正敏)と出会う。その出会いには、不思議な盲目の女性アキ(夏木マリ)が絡んでいた…。智と深い仲になったジャンヌはいったん母国に帰る。一人になった智は鈴(岩田剛典)と出会い、森を守るための共同生活を始める。そこへ戻ってきたジャンヌとの3人の生活が始まる。
森の生活の中で、ジャンヌは岳(森山未来)という青年を愛した過去を思い出していた。岳はある老いた猟師(田中泯)の誤射で命を落とす。二人の間に生まれた子はアキの手を介して岳の実家に預けられた。鈴は、その子の成長した姿なのか。
前半はともかく、後半はバタバタとストーリーを追った、アート系らしからぬ展開。そこに、ビジョンという謎の植物は997年に1回現れるとか、997は素数であり、ほかの数字の介在を許さないとか、中途半端な講釈がつく。全体を通して言いたいことは、人間にとって不条理とも思える畏敬すべき自然の深遠さのように思うのだが、その割には「素数」などという断片的な近代の「知恵」や「意味」が顔を覗かせるから、観るものは戸惑う。
理解不足かもしれないが、結局のところ鈴はジャンヌの子だったのだろうか。そうだったとして、結局何が言いたいのだろうか。何か霊的なものを全編に漂わせ、ちょっとアートのような理解困難な絵の構成で、最後は大団円。何を主張したことになるのだろう。河瀬直美の過去の作品の名声と、この「Vision」は、あまりにも落差が大きい。
2018年、日仏合作。
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