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ジャーナリズムの王道を描く~映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」 [映画時評]

ジャーナリズムの王道を描く~
映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」

 

 1971年、米国防省の研究スタッフであったダニエル・エルズバーグによってベトナム戦争の機密文書のコピーがニューヨークタイムズ紙に持ち込まれた。同紙はコピーの信ぴょう性をめぐって3カ月にわたる検討を重ねた末、ニール・シーハン記者を中心にチームを編成、キャンペーン報道に踏み切った。それは、政府が公表してきたベトナム戦争の真相とは大きく違うものだった。国家機密の漏えいととらえたニクソン大統領とマクナマラ国防相は司法による差し止めを求め、対立は法廷に持ち込まれた。一時はNYタイムズの独走状態だった報道は、ワシントンポスト紙が後追いをしたため、新たな局面を迎えた…。

 このエルズバーグ事件がスピルバーグによって映画化された。事件の推移を縦軸に、横軸にはワシントンポストの女性オーナー、キャサリン・グラハムの苦悩と決断を置いた。キャサリンは映画会社MGMの経営者の娘として生まれ、ワシントンポストのオーナーと結婚したがオーナーが自殺したため跡を継いだ女性である。新聞経営やジャーナリズムとは無縁なところで生まれ育った。そうした女性が米国ジャーナリズムの歴史に大きな足跡を残したのである。キャサリンにはメリル・ストリープ、ワシントンポストの編集主幹ベン・ブラッドリーにはトム・ハンクスが扮した。

 米メディアの中で、全国紙としての地位を固めていたNYタイムズに比べ、ワシントンポストは当時、ローカル紙の地位に甘んじていた。しかし、ペンタゴン・ペーパーズを報道することでジャーナリズムの世界で一定の評価を得ることができる…。

 キャサリンは最終的に「いいわよ、やりましょう」と決断するのだが、そこに至る道筋は一通りではなかったようだ。彼女とワシントンポスト社内の議論は、当時NYタイムズ紙のベトナム特派員で、後にノンフィクションライターとなったデビッド・ハルバースタムの「メディアの権力」(サイマル出版会)に詳細に記録されている。この中でハルバースタムは「報道の自由を守る唯一の方法は、報道することなのです」という同紙編集スタッフの名セリフも記録している。もちろん、映画でもこの言葉は登場する。ただし、事実とは違ってベン・ブラッドリーの発言として。この言葉はキャサリンの自伝「わが人生」(TBSブリタニカ、1997年)にも残されている。「新聞の良心が試される時が来た」という同紙幹部の意見や「やりましょう、実行です」というキャサリンの決意とともに。

 報道差し止めか否かの議論は最高裁まで持ち込まれ、最終的に新聞の側が勝利する。「新聞のない政府より政府のない新聞を選ぶ」といったトマス・ジェファーソン第3代大統領の言葉がなお重みを持つことが立証された瞬間だった。

 いま、米国では「フェイクニュース」とメディアを選別、非難する大統領が生まれ、日本では臆面もなく政府に擦り寄るメディアが登場するに至った。こういう時代だからこそ、エルズバーグ事件を通じてジャーナリズムの王道、輝けるジャーナリズムの時代を描くことに意味があるのだろう。映画の演出もその辺をわきまえていて、余計な説明はつけず淡々と事実を追っている点、好感が持てる。



ペンタゴンペーパーズ.jpg

 


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