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名匠も年を取ったな~映画「15時17分、パリ行き」 [映画時評]

名匠も年を取ったな~映画「1517分、パリ行き」

 

 2015年の事件を下敷きにした87歳クリント・イーストウッド監督の最新作である。舞台はヨーロッパ、アムステルダムからパリに向かう特急列車。銃で武装したテロ犯がヨーロッパ各国から乗り合わせた554人を人質にする。そこで立ち向かった米国人3人の活躍を描いた。

 米空軍のスペンサー・ストーン、オレゴン州兵のアレク・スカラトラス、そして2人の友人アンソニー・サドラー。幼なじみで偶然、夏の休暇をともに過ごすためヨーロッパに来た。映画では、「お手柄」の3人は本人自身が演じている。それぞれの少年期(このシーンは当然、別人が演じているが)、日常生活が描かれ、彼らがどれだけ「平凡なアメリカ人」であったかが強調される。日本的な感覚では、兵役についていた彼らがとても「平凡」な人間とは思えないが。

 彼らは疾走する特急列車内で無差別テロを企てた男を組み伏せ、途中の駅で治安部隊に引き渡す。重傷を負った乗客も医療班の手に渡され、死を免れる。事件後にはフランス大統領から3人にレジオンドヌール勲章が贈られる…。

 窃盗犯を捕まえた地域の防犯協会のメンバーが警察に表彰された、といったニュースが新聞の地域版に載ったりするが、この映画の展開はそうしたニュースの拡大版のようにも見える。仕掛けが大掛かりな割にテロ犯の人間性も掘り下げられておらず(この点は「アメリカン・スナイパー」での敵兵の描き方でも感じたことだが)、映画としては平板な印象がぬぐえないのだ。

 そんな中で、興味深いシーン。ベルリンを訪れた3人が、総統地下壕でヒットラーは自殺した、というガイドの説明に異論を挟み、「いつも米国のお手柄であるわけではない。ヒットラーはソ連軍が迫ってきたのでここで自殺した」と反論される。ヨーロッパを解放したのは米国を主力とする連合国軍、という通説への皮肉であろう。裏を返せば、かつてヨーロッパをヒットラーの手から解放したソ連軍はもういないのだから、ヨーロッパを守るのは米国しかないんだよ、と言っているようでもある。イーストウッドはそんなことが言いたかったのだろうか。

 いずれにしても、平板さと底の浅さを見るにつけ、イーストウッドも年を取ったな、と実感させられた一作である。

 

パリ行き.jpg


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