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今なお続く米国の病根~映画「デトロイト」 [映画時評]

今なお続く米国の病根~映画「デトロイト」

 

 今から半世紀前、世界は「1968」で揺れた。フランス、米国、そして日本。あれは何だったか。さまざまな総括がなされる中で、一定の共通項として認められているのは反権力・反権威の新世代(ニューウエーブ)の台頭、ベトナム戦争への反発、テレビの出現(メディア革命)による情報の世界同時的共有、そして公民権運動の広がり(世界的に見ればこれが一番大きい)だった。

 映画「デトロイト」は1967年7月の、人種差別に端を発した住民暴動を取り上げた。中でも、いまだに真相が闇の中という「アルジェ・モーテル」での惨劇に焦点を当てた。監督はキャスリン・ビグロー。2008年にイラク戦争の米軍爆発物処理班のひりひりする日常を描いた「ハート・ロッカー」で注目され、2012年「ゼロ・ダーク・サーティ―」はビンラディン捜索に執念を燃やすCIAの女性分析官を描いた。いずれも、ドキュメンタリータッチの緊迫感ある映像で畳みかける手法が秀逸だった。

 この「デトロイト」も、前作に劣らず緊迫の映像が連続する。しかし、何かが違っている。前にあげた2作も「アメリカ」をスクリーン上に浮かび上がらせたが、今回は映像の裏側にとてつもない何かを潜ませているように思える。冒頭で書いたように、デトロイト暴動から1年後、米国ではベトナム反戦とともに人種差別撤廃の動きが高まる。この映画「デトロイト」は、そこへ向かう米国の熱く暗い思想潮流を暗示させる。

 1967年、デトロイトでは白人が郊外に住み、市内の環境の悪い区域に黒人は押し込められていた。ささいなことで白人警官の尋問に腹を立てた黒人たちが暴動を起こし、デトロイト市警、ミシガン州警、ミシガン州兵までもが出動する事態になった。「アルジェ・モーテル」に宿泊していた黒人グループの一人が、冗談としておもちゃのピストルを窓から撃つ。発射音に驚いた警官、州兵は「狙撃者がいる」として臨戦態勢に入った。制圧された黒人たちはデトロイト市警によって現場で尋問を受ける。指揮を執ったのは、狂信的なレイシストとして知られるある男だった。尋問は死の恐怖を伴う「ゲーム」によって進められたが…。

 事件の真相は後の捜査によって一定の解明をなされるが、結局は携わった警官たちに無罪判決が下される。「正義」のない法廷に黒人たちの憤りが募る。

 事件はいまだ真相は確定していないという。そのことに、今なお続く米国の「病根」を見る思いだが、映画はそこを関係者の証言などで丹念に掘り起こし、真実に迫ろうとしている。なお、この年、フリージャズのジョン・コルトレーンが亡くなった。そのエピソードがセリフの端にちらりと出てくるのが興味深かった。2017年、米国。

 

デトロイト.jpg


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