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親鸞思想はなぜ戦時ファシズムと結合したか~濫読日記 [濫読日記]

親鸞思想はなぜ戦時ファシズムと結合したか~濫読日記

 

「親鸞と日本主義」(中島岳志著)

 

 近代日本政治思想に深い洞察を重ねる著者には、これまで「血盟団事件」や「朝日平吾の鬱屈」といった著作がある。「血盟団事件」は、一人の煩悶青年が日蓮主義に心動かされ、一人一殺という究極の行動主義へとのめりこむ過程を描いた。「朝日平吾…」は、安田善次郎暗殺に走った男の思想に、血盟団の思想の源流をみる。中島の著作をもう一つ上げれば「アジア主義 その先の近代へ」がある。西郷隆盛、大川周明、石原莞爾らを追う中で、明治維新から日中、大東亜戦争へと至る思想の流れを追った。

 「アジア主義…」の中で、中島はバーナード・リーチにあてた柳宗悦の手紙を紹介する。こんな趣旨のことを書いている。山の頂上はひとつだが、登る道はいくつもある。しかし、最後は同じ頂上にたどりつく…。「アジアは一つ」という岡倉天心の「不二一元論」と同じ地平に立ったのである。仏教の道もキリスト教の道も違って見えるが最後は同じ真理にたどり着く、という。

 「親鸞と日本主義」もまた、こうした不二一元論、多一論的認識が何をもたらしたかを追った。

 真宗大谷派(東本願寺)と浄土真宗本願寺派(西本願寺派)の戦争協力問題は真俗二諦論によって総括されてきたという。「天皇への絶対的帰依」は俗諦(世俗的真理)によって説かれたが、これは親鸞の教えの本質ではない、とする主張が戦後の主流となることで、戦争協力問題は乗り越えられたと認識された。ここに中島は異論を唱える。親鸞の思想そのものに日本主義と結びつきやすい構造的要因があったのではないか。

 ここから、昭和初期の思想に表れた親鸞主義者たちの足跡を追った。激烈な知識人批判を展開した三井甲之、蓑田胸喜。親鸞をモデルにした「出家とその弟子」でベストセラー作家となり、後に大乗的日本主義としてファシズムを肯定した倉田百三。獄中で親鸞思想に触れ、転向していったマルクス主義者たち。亀井勝一郎の回心、求道者武蔵を通して日本主義とは何かを説いた吉川英治。そして戦時下、天皇制との共存をめぐって揺れた真宗大谷派の教学論争。中でも、仏陀と天皇の一体化を主張する暁烏敏に、多くのページが裂かれた。暁烏はこういう。

 仏陀以前に日本の国を開いた天照大神こそが、その教えの起源であり、神ながらの道こそが仏教である。

 ここで仏教と神道は一体となる。仏の顕現としての天皇を奉る。自力を疑い、絶対他力に帰依する親鸞の思想は「神ながらの道」に回収され、天皇の大御心に随順する。仏教における翼賛の思想が完成する。

 最後に中島は、日本におけるナショナリズム形成の特殊性に言及する。明治維新後、国学者によって理想化された「かんながらの道」に日本的ナショナリズムは萌芽した。したがって支配―被支配は「神の意思」によって行われた。いいかえれば人間の作為を超越したところで「支配―被支配の超克」が行われたのである。こうしたユートピア的国体論に、絶対他力の親鸞思想が接合したというのが、中島の結論である。本来なら観念的で難解な内容になって不思議はないが、思想のドラマを簡明にわかりやすく記述しているのは著者の力量によると思われる。

 新潮選書、1400円。

 
親鸞と日本主義 (新潮選書)

親鸞と日本主義 (新潮選書)

  • 作者: 中島岳志
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/08/25
  • メディア: 単行本

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BUN

洞察鋭い切り口の「夕陽の回廊」さん。下世話ながら、大相撲日馬富士事件の見解をお聞きしたい。
by BUN (2018-01-13 23:51) 

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